セイレーンに光の夢を

みんと

プロローグ 春の夢

 ザザン…と音を立て、寄せては返す波のつづみが響く夜。

細い三日月に照らされた砂浜に、一人の少年が、海を見つめ立っていた。


 ミルクティーベージュの髪に宝石のような青い瞳。

幼くもどこか妖艶な美しさを湛えたその少年は、服から水を滴らせ、じっと、暗い海を見つめている。


 彼の視線の先には、淡い水色の髪をした一人の少女。

海に揺蕩たゆたう少女は、強張った顔で少年を見つめ、すぐに視線を逸らす。

決して見つかってはいけなかったのに。

それがセイレーンの掟なのに。

助けた少年の視線に、頬が熱くなった。


「また逢える?」

 すると、華やかなウェーブを描く少女の後ろ髪を見つめ、少年は静かに問いかけた。

サファイアブルーの瞳に名残惜しさを乗せ、たった一瞬の逢瀬おうせを慈しむように、少女に手を伸ばす。

だが、少年の問いかけに少女は大きく首を振った。

セイレーンと人間は決して交われぬ種族。二度と逢えない。


 視線を断ち切るように、少女は海へ潜った。

深く深く、この頬の熱が冷めるほど、冷たい海の底へ…――。



 ――…それから十数年の時が流れた。

海を生きるセイレーンの王女・セシリーヌ。

このたった一度の逢瀬が、彼女の人生を変える運命の出逢いと知ったのは、ある初夏のこと。

眩しいほどの太陽が照らす海で、運命に彩られた二人の恋が、今、幕を開ける。

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