第13話 エコー
「で、さっきの男がその完成品である"エコー"という訳だな。壊人が作られた当初という事はかなり古い文献だろう、おそらく事の発端であるDr.エンデとやらはもうこの世には居ないと思われる」書類を正面で読んでいた彼は言う。
「なぁ、リーダー……奴等には感情も知能も無いって書いてあるが、子供も居たし母親は泣いていたぜ。どういう事だ、俺達は何を殺したんだ」それまで黙っていた男が口を開いた。
「わからない。長い年月をかけて独自に進化し、感情や知能を取り戻しつつあったのかもしれない……。だが、彼らは既に人間ではない……人間ではないよ」正当化しようとしていたが蚊の鳴くような声だった。
「仮に感情を取り戻したって人間の音を感知して身体は勝手に人を襲う。襲われた人間は殺すしかない……何がなんでもそりゃねぇぜ」彼はまた黙り込んだ。
身体と心を同時にやられ、士気も地の底まで落ちた。リーダーはこれ以上この施設に費やしても浪費するだけだと判断してエコーを探す事を諦めた。
「君達の拠点へ戻ろう」
「……了解」
施設の外へ出ると辺り一面は二人が来た時と光景が変わり、壊人の死体と血で埋まっていた。施設の中で叫ばれたエコーの声に呼応した外の壊人をリーダーの仲間達が片付けていた。
「すごい数……」
その死体の山を掻き分けた所に、銃弾を受けた女性が治療を受けて横になっていた。
「リーダー! ヒエンさん治療しましたが、意識が戻らない状態です……」
「……わかった、このままヒエンの様子を見てくれ。あまり動かすな、出血が酷い」そう言うと意識の無い彼女の手を握った。「死ぬなよ、ヒエン……」
「さぁ、二人とも拠点に帰るんだ。馬で行けば先程の仲間達にすぐ追いつくだろう。……俺も君達の拠点まで着いて行こうと思っていたが、ヒエンの容体が心配だ。すまない……」申し訳なさそうに下を向いた。「護衛に送ったうちの仲間には、拠点に到着し次第こちらに戻るよう伝えておいてくれ」
「了解した、リーダーありがとう。ヒエンさん……庇ってくれてありがとう。あなた達が来なければ僕達は確実に死んでいた、手伝ってくれた他のみんなにも感謝を伝えてもらいたい」
「リーダーさん、世話になった。ありがとな」
まだ青みの引かなかった早朝に始まった救出劇は赤く染まった血の色と陽の光で一旦幕を閉じた。
二人は繋いでいた馬の元に戻って縄を解くと、助けてくれた人達に別れの意味の一瞥をして馬に乗って初めに来た道を再び走り出した。眼前の夕焼けに浮かぶ雲のように曖昧な心持ちでいた二人は言葉を交わさず、護衛に守られてゆっくり歩いて帰っている仲間の元に合流した。
「英雄が帰ってきたわよ!」
「おかえりなさい」
「たくさん頑張ってくれてありがとうね」
拠点を守る為に戦い、傷つき、死んでいった仲間達の事を吹っ切れている者は居なかったが、悲しみや誇りが混ざり合って、少しでも明るく二人を迎え入れる者や悲しみに立ち直れない者等、考えは皆様々だった。
「みんな生きていてよかった」彼はそう言うと皆の顔を見渡した。
「お兄ちゃん……! 」集団の中で妹と目が合った。
「マイ! よかった……本当によかった。遅くなってごめんな、怖かっただろう」
「ううん、お兄ちゃんこそ死ななくてよかった、心配だったんだよ? 私を置いて死ぬんじゃないかって……」
「ごめんな……」
彼は馬から降りるとあの日と同じように泣いていた唯一の血縁を抱きしめた。今出せる力いっぱいに。お互いの無事を確認すると妹は集団の中に戻った。彼はリーダーに頼まれた伝言を護衛に伝えると、馬に乗って集団の一番後ろに着いた。
道中何回か襲われる事があったが、拠点の仲間で戦える者数人と護衛とで対応できた。休憩を挟みながら歩いた為、拠点に戻ったのは次の日の太陽が頭上で煌々と光っている頃だった。拠点に戻るまでの間、いよいよ彼の相棒が口を開くことはなかった。
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