第12話 小さき者

 その壊人は悲痛の笑顔を浮かべながら身体を小さくして震えさせ、眼からは涙を流している。大事そうに何かを抱えている腕の中には小さき者。その必ず二人一組になっている者達が、部屋の中に一瞬では把握できない程無数に存在した。その部屋には異様な重さが充満している。


「小さいのもいる……!」


「壊人は戦争の為に作られただけの存在だろ……? こども……? どういう事だ、ここで繁殖してたってのかよ……」


 その話し声の"音"に反応して女性の形をした壊人が子供を後ろに下がらせて立ち上がると、涙を溜めた笑顔で音に目掛けて切りかかる。


 精神的な衝撃を受けた仲間の一人が脚を地面に埋められたように一歩も動かず呆然としている。不動の男に鋭い腕が届きかけた時、横から小刀で腕を切り落とす。


「タケル! そいつこどもを……」彼も衝撃に揺れている。


「今気圧されている場合じゃない! 壊人は壊人だ、ぼーっとしてたら全滅するぞ!」


 その意思を聞いて他の五人もやっと動き出す。子供をかばい、泣き笑いを絶やす事なく戦った壊人を一人残さず殺し、守られた小さき者もまた同じ道を辿って死んだ。


 部屋の一番奥の角には絶望の表情を既に無い顔に浮かべながら、腰元を光らせた先程の壊人が座り込んでいた。仲間を檻から救い出す為に容易く殺した。


「鍵を取ろう! これでみんなを救える……!」隣の男を見る。「ケンジ、大丈夫……?」


「……」彼は何も言わなかった。


「とにかく、牢屋の方に戻ろう。君達の仲間をあそこから出してやるのが先決だ。目的を遂行しよう」


 牢屋に戻ると、見張りについていた三人が少し暇を持て余して待っていた。「今中に居る三人以外は誰も来なかったぜ」そう言うと戻ってきた英雄達を中へ入れる。


「ミヤビさん!」


「遅れてすまない、道中で壊人に襲われてな……。大体の話はそこの三人から聞いた、大変だったろう。皆命があってよかった」遅れて出発した三人が到着していた。


 それぞれ牢屋の鍵を開けて幽閉されていた仲間達を外へと解放する。


「二人共ありがとう……! みんな不安でたまらなかったわ。……そちらの人たちはだれ……?」


「僕がこどもの頃に命を救ってくれた恩人だよ。今回もみんなを救う為に力を貸してくれたんだ……!」


「ありがとう」皆がそれぞれに自身の感謝を伝えた。


「ミヤビさん、って言ったか? あんた達お仲間を拠点まで連れて帰ってやってくれ。うちからも何人か護衛を出そう」彼はそう言うと外の仲間に指示を出した。


「あの任務は彼らに任せよう。ここからの我々の動きだが、先の正体不明の男を探す。放置しておいて良いことは無さそうだ。だがこちらもかなり疲弊しきっている、危険だと判断したらすぐさま撤退する」


「了解」


 六人は全身に疲労をおびただしく浴びて、擦る脚を白い床が手放そうとしない。男が消えていった扉を用心深く開けて中に入ると、そこは中央に人が一人寝転がれる程の大きさの机があるだけでその他には何もなく、机の上に書類が乱雑に散らばっていた。


「これ以上道がないぞ。隠し通路……?」


 部屋の隅や壁、床等を触ってみたが異変がある箇所は無かった。一人が机の上の書類を見て皆を集める。


「これ見て……。壊人について書いてある」

 散らばった紙を並べて一つずつ読み始める。


――やっとだ、長かった。人生のほぼ全てをこれに捧げた。私の代表作だ。ようやく生体兵器Eが完成した。だが完成品を軍に渡す事は非常に惜しい、まず量産する事自体が難しいだろう。軍には死刑囚や奴隷を使った今までのトライ&エラーによる大量の失敗作を渡そう。知能こそほとんど無いが身体能力の向上や痛覚の低下等、兵士として使うのには申し分無い。――


――失敗作についても使いやすくする為に調整を行なった。視覚を失った生体兵器Eは人類、言わば敵兵の音だけを敏感に聞き取り、襲うよう調整。無論、生体兵器E同士が鳴らす音や人類以外の音には全く反応を示さない。完全な、人類を殺す為だけの兵器。――


――生殖器官については残してある。しかし、知能や感情が無い以上性交を始める事はない。これは労力と資金の削減のために敢えていじらなかった箇所である。有ろうが無かろうが兵器に支障は全く無い。――


――完成品にはエコーと名付けた。私の息子として側に置き、訓練する。身体能力は凄まじく、痛覚も感じないが知能はある。それも人類を凌駕する知能が。実質失敗作に指示を出せるのもエコーだけだ。私がこの世から去った後でも意志を完全に継いだエコーは、いずれ無益な人類を滅ぼすであろう。

――Dr.エンデ――



 

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