第11話 謎の男
一番距離の遠い正面扉の男は放置して、呼び寄せられた壊人を処理していく。刀を使った五人は疲弊もしておらず、難なく首をはねて殺す。バットを持った二人は腕の感覚がほとんど無い。重量のある武器を気力で振り回す事しかできず、周りの五人に上手く援護されている。
見かねたリーダーが動く。隣に居る女性に合図を出すと乱戦を抜け、廊下から昇降口に向かって指示を叫ぶ。
「増援! 補給!」
昇降口付近で待機していた仲間の内の二人が動き出す。刀を一本ずつ背負い、新たな少し小ぶりな刀を二本手に持って駆けつけた。
「これを使ってくれ、バットは重いだろう」
「すまん! 世話になるぜ!」
乱戦に長い刀は取り回しが難しく、二人の小ぶりな刀はこの状況で活躍した。しかし、活躍すればするほど鋭い爪は刀の刃こぼれを誘発させる。
握力がほとんど無くなっていた彼は鋭い爪に襲われた際に命綱である刀を落とす。刀は床で硬く高い音を鳴らした。
「タケル、刀が! 大丈夫か!」
武器を落として隙を見せた瞬間、正面扉の前で何もせず突っ立っていた男が少し動き、手元が黒く光る。その口は武器を落とした者へ向けられ、放たれた。彼は鋭い閃光と破裂音に反射的に眼を閉じる。次に眼を開けた時には彼の正面に女性が血を流して倒れていた。
「ヒエンさん……! どうして……」彼の開かれた眼は眼前の赤と白に明滅する。
「止血を頼む! 早く……!」先程来た二人に指示を出す。
「くそっ! マークしてなかった」
リーダーは大弓に矢を一本つがえて放つ。正面扉の男は自らが撃った人物にまるで興味が無いように煙の上がる銃口を見つめたまま扉の向こうに消えていった。
指示を受けた二人は止血を行い、弾を受けた女性を外へと運び出す。その間もこれ以上は進ませまいと壊人が湧いて出て来る。
数に限りが無いように思えた大勢の群れの最後の壊人の首が床を跳ねる頃には全員満身創痍で、なんとか立っていられる程だった。
「ヒエンさん……」彼は自身のミスに責任を感じている。
「……大丈夫だ。 止血もして今は治療している頃だろう」
「リーダー、さっきの男を追いましょう! 放置すると危険です。ヒエンさんもやられました……」仲間の一人が刀を握り締めて言う。
「いやだめだ、追わない。奴はこちらの想定外だ、まずは当初の目的である捕えられている人達を優先する。――二人の方を向いた――君達、仲間が居る場所はわかるか」
「あぁ、外から確認しただけだがこの建物の右側に居ることは確かだ。この扉のどれかが繋がってんじゃねぇか」
「開けてみよう」
六人は右側の扉を手当たり次第開けていった。ハリボテの扉や薬品が乱雑に置かれた部屋、ゴミで埋まっている部屋がある中で一人の男が長い通路と檻を確認すると、方々に散らばっていた仲間を呼びつけた。
「おい、こっちだ!」
男の方へ集まり、部屋の中へ入る――部屋といってもかなりの広さがある――と鉄の檻越しに二人は仲間との再会を果たした。
「みんな! 遅くなってごめん! 全員揃ってる?」
「ありがとう……! 誰も殺されていないわ、ここに保管されていたみたい」
檻の中の者はそれぞれに喜びと安堵の涙を流し、身体の緊張がほぐれてその場に座り込んでいる。
「鍵がかかってるぞ! あいつらそんな知能まであんだな……。鍵を探さねぇと」
「見張りを呼んで来てくれ! 二、三人は呼んでも大丈夫だろう」リーダーが指示を出す。
「俺達は鍵を探そう。どこかに保管しているのか……? さっきの群れでほとんどの壊人は殺したと思われる。二手に別れて探そうか」
見張りの三人が駆けつけて、牢獄の部屋の前と中に配置された。
「リーダー! あそこにまだ息があるやつがいますよ!」見張りの内の一人が部屋の外から叫んだ。
大量の死体の山から一人、立ち上がると首が無い者は腰元に何かを光らせて左側の扉へよろけながら最大限の速さで走って行くのが見えた。
「なんだ……首が無いのに動いてる……! 見て! あいつ鍵を持ってるよ! 早く追いかけよう!」
「なんであいつだけ首無しで動けるのかわかんねぇが、鍵を守ってるってわけか、捕まえるぞ!」
首無しは血を撒き散らしながら扉へ辿り着くと即座に部屋に入り、鍵の掛かる音がした。
「あの扉にも鍵か!」
木製の扉は鍵が掛かっているが、強行突破を選択し、武器として持ってきた金属バットを扉の上から振り下ろすとバットが貫通して穴が空いた。そこから手を入れて内鍵を開けようか迷ったが、中が見えない以上危険と判断して扉を人が通れる程度に叩き壊した。
中に入るとその存在を想定していない者達が居た。
「……女の壊人?」
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