第4話:驚愕

 最初は憧れだけがあった。

 新聞で見た白黒の朝焼けに、美しさを感じた。

 軍の徴兵試験に受かって、父を一人おいて家を出た。

 訓練は厳しかったけど、特務官になってやると思いながらやっているうちにそれほど苦ではなくなった。

 壁に配属されることが決まってから、ずっと有頂天だった。さっきまでは。

 あの手帳を、見るまでは。

******

 約2時間前。

 夕食を終え後片付けをした後、私は自室にいた。

 が、することがない。軍の訓練生の頃にはおとずれることのなかった、自由な時間だ。私はそれを持て余していた。

 何をするでもなく、ポカーンとしている時間。しばらくして、私はあることに気がついた。

 今いる椅子の所から左前―――つまりベッドがある所の横のタイルが、少し浮いているのだ。

 なんとなく気になって手をかけると、いともたやすくタイルは外れた。

 中を覗き込む。

 そこには一丁の拳銃と、黒い装丁の手帳がぽつんと置かれていた。何か良くない物を見つけてしまったのかと、背筋に冷や汗が流れる。

 ちょっとした恐怖と、とてつもない好奇心。私は手帳を手に取ると、ページをめくった。


 私の憧れは、一瞬にして砕け散った。


 『我々は生贄だ。国の未来と引き換えに私達は神に捧げられるらしい。どのような神なのかは分からない。どうして私なのかも分からない。ただ一つ言えるのは、友人のおかげで私は神を見なくていいということだ。G.C.』

 『あんなものが神だなんて、おぞましい。アレに守られるくらいなら、滅んだほうがマシだ。H.R.』

 『どうして私なんだ、死にたくない、死にたくない、死にたくない……。K.D.』

 『アレは神じゃない。魔物だ。私達は朝焼けの魔物に魅せられたのだ。S.E.』

 『銃は効かなかった。アレは何か反応を見せることもなく、ただ淡々と死体を喰らった。F.R.』

 『国を守る為に命を捨てる。そこに必要なのは覚悟ではなく事実だ。我々は確かに、『特務官』なのだ。O.M.』

 そんなメモが、びっしりと続いていた。

 震えが、止まらなかった。

「見つけて、しまったんだね」

そんな声が、後ろから聞こえた。

 「……特務官」

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