第3話:夕食

 太陽が沈んでから2時間が経過していた。

 私は今、特務官と一緒に夕食を摂っている。

 メニューは黒パンと、サラダと、赤ワインと、シチュー。よりにもよって軍で乳製品を口に入れられるとは思っていなかった。

 「……随分と意外そうね」

 「ふぇ?」

 急に話しかけられたので、思わず変な声が出てしまう。どうやら顔に出ていたようだ。酔っているのか、特務官の顔は若干赤くなっている。この国は『15歳から成人だから』という理由で飲酒と結婚が許可されているが、正直早すぎると思う。今の特務官の状態がいい例だ。

 「どうしてこんな所に乳製品という高級なものがあるのか、と考えなかった?」

 「そうです。というか、よくわかりましたね」

 「私も昔、気になったのよ。それで先輩に聞いたの。『どうしてですか』って」

 「先輩?」

 「あぁ、先代の特務官のことよ。私はそう呼んでいたから、つい癖で」

 そう言いながら、特務官は笑っているのか悲しいのか、よくわからない表情を浮かべた。

 「それで?なんて言われたんですか?」

 「『秘密』って」

 「えー」

 期待していた回答と違ったので私はガックリと肩をおとす。実は、今日の夕食のシチューが私にとって人生初の乳製品だったのだ。初めての贅沢ぐらいには、「何故あったのか」を知りたい。

 つまんないのー、といった雰囲気の私に対して、特務官は続けた。

 「でも、『明日にはわかる』って言われて、実際そうだった」

 「……何故明日なんです?」

 「秘密〜♪」

 「あーもー……」

 ここまではぐらかされると追求するのが面倒だ。そんなことを考えながらシチューを頬張っていると、特務官が突然笑い始めた。

 「何がおかしいんですか」

 「顔芸だけは、顔芸だけはやめてっ、あははっ」

 笑い続けているせいで息も絶え絶えな特務官の話をなんとか聞き取ったところによると、どうやら私の表情が、シチューを食べる度変化していてとても面白かったとのこと。

 「……しょーもないことだって思いません?」

 特務官は、笑うだけで返事をすることはなかった。

 ……どうやら、特務官は笑い上戸だったようだ。

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