第27話 天候操作装置及び地殻探査装置による天災の克服
時は西暦2152年
「ついに完成いたしました! 人類史上最も大きな建造物、軌道エレベーターが!」
人類は真夜星の研究によって、さらに豊かに、平和になっていた。
その象徴として作り出されたのが、あらゆる国家が協調して作り出された起動エレベーターだ。
静止軌道衛星からスーパーカーボンナノチューブによるケーブルを垂らして、作り上げる軌道エレベーター。
その根幹であるカーボンナノチューブを真夜星は開発した。
それ自体は百年前に作り上げていたが、こうして軌道エレベーターを作り上げるためには全世界の協力が必要だったのだ。それを真夜星は自らの手にした莫大な利権と勝ち取った尊敬で手にすることができた。
つまり真夜星は。
この地球の王となったのだ。
表向きには彼は特別な地位についているわけではない。
けれど彼が一声を上げれば、それだけで一つの国が興るほどの資金が動くだろう。
「まずはフェーズ1の達成はできたみたいだな」
感慨深げに真夜星は呟く。
その姿は百年以上前の若々しい少年の姿のままだった。
理由はシンプル。
新しい肉体に脳移植をしたのだ。
肉体をクローン技術を用いて培養。その後テロメアの再生成を行う薬を飲んで脳みその寿命を引き上げる。そして新しい肉体にそれを移植する。
そうすることによって彼は自身の肉体の寿命を克服していた。
これらの技術は他の難病を抱えた患者にも流用されている。
事実上ありとあらゆる病を人類は克服したことになる。
「次にやることはシンプルだ。地球の防衛。今後予期される災厄に対応することが必要になっていくだろう。まずは開発中の天候操作装置と地殻探査装置だな」
天候操作装置は文字通り天候を操作して、台風などの天災を克服していくためにある。
他にも農地にダメージを与えるような気候を制御していければ食料供給はより安定するだろう。
地殻探査装置は近くに存在する歪みを発見して、地震を予測。
いつ、どこで地震が起きるかを正確に予想して事前に住民を避難させることによって、地震災害を克服しようという試みである。
天と地。
二つの災害を克服した暁には、真夜星の名声と権力はさらに高まっていくだろう。
「そうすることで彼女への道は一歩近づく……」
本当は一秒だってこんな世界にはいたくない。
彼女の居ない世界なんか、何の価値もない。彼女を奪った世界なんて何回滅ぼしても足りない。
けれどもう一度彼女に出会うためならば、どんなことでも我慢できる。どんな艱難辛苦だって乗り越えることができる。
いくらでも人類の救世主を演じることができる。
全ては世界で最も大切な人のために。
「頑張るとするか」
「教授!」
「どうした?」
「イエローストーン国立公園にて、破局的大噴火の予兆があります!」
新たな終末の足音が、人類に迫り来ていた。
□
破局的大噴火とは何だろうか?
端的に言えば地球環境そのものが激変しかねないほどの火山灰が放出される大噴火だ。
スーパーボルケーノと呼ばれるクラスの火山から解き放たれた火山流は半径数十キロを燃やし尽くし、まき散らされる火山灰は地球全土を覆って平均気温を十度近く低下させる。
そんなことになれば食糧生産に大打撃を受けるだろう。
真夜星の進めてきた外の環境の影響を受けない、食糧生産に特化した巨大ビル内での水耕栽培も、未だに全世界の食糧を賄うには到底足りていない。
また上空にまき散らされる火山灰も問題だ。
そんなものがまき散らされれば航空産業にも大ダメージを受けてしまう。
火山灰がエンジンに吸気され、エンジン内部が焼き付いてしまうからだ。
「天候操作装置はどれだけ完成している?」
「未だに一国を覆うことが限度といったところです」
「なるほど。となると全世界に配備して天候を正常化するというよりも、一国に壁を作るように配備して、火山灰を閉じ込めるといった手法が最適か」
それはつまり、一国を犠牲にしなくてはならないということだ。
超大国アメリカを。
「大統領に話をつける必要があるな」
そのために真夜星はホワイトハウスに来ていた。
ソレを我が物顔で闊歩する真夜星。そして大統領の執務室へと到達する。
「こんにちは、大統領」
「初めまして、ミスター真夜星」
彼の顔には緊張が見てとれた。何せ百年以上の時を生きる実質的な地球の支配者を目の前にしているのだ。
彼の機嫌一つで――実際にそんなことはしないが――自分の首が物理的に飛ぶことすらあり得る。緊張も当然のことと言えた。
「それで本日はどのようなご用件でしょうか? 我々の国が何らかの問題を起こしたということはないはずですが……」
「既に通達した通り、破局的大噴火の恐れがイエローストーン国立公園にあります」
「それは……」
「ええ。人類存続の危機です」
「何とかならないのですか?」
「何とかします。私の目的のために。けれどそのために米国に泥をかぶって頂く必要がある」
「そ、それはどういうことですか?」
真夜星は自分の計画を大雑把に説明した。
アメリカ大統領は憤激した。
「それは我々を見捨てるということですか!?」
「いいえ。充分な食料供給を外国から行います。火山灰の除去も我々財団の総力を挙げて行うでしょう。国民の安全は我々財団がん保証します」
財団とは真夜星が作り上げた、組織のことだ。発明によって得た莫大な利権を管理し、その利権で新たな発明を作る資金を捻出する。彼の発明を実現する最高レベルのエンジニア兼科学者集団である。
そして今この二十二世紀においては、二十一世紀の米国に代わって『世界の警察』の役割を担っている。当時の米国よりも公平かつ完璧に。
そんな彼らが命じているのだ。
実質的に米国に拒否権はない。それでも米国大統領は抗弁した。
「いくら人類全体のためと言えど、わが国民が犠牲になることなど認められません」
ソレは一種のパフォーマンスであったのだろう。
表向きは財団というNGO法人の長でしかない少年めいた老人に、国の舵取りを二つ返事で任せようとしなかったという行動を見せるために。
それに対する真夜星の反応は冷徹だった。
「では一連の会話は公開し、米国への支援も最低限のモノにします。我々の提案を拒むということは天災を自国のみでどうにかする手段があるということですよね。ならば我々の手を借りる必要はないはずだ。当然他国から何らかの損害賠償を求められた際にも我々は一切関与しません」
「ま、待ってくれ!!」
立ち去ろうとした真夜星に、大統領が縋りつく。
「私が悪かった! だからどうか我が国民を助けてくれ!」
「必要ないはずでは?」
「い、いまのは、私の言葉の綾のようなモノなんだ……。だから頼む。助けてくれ」
土下座する大統領に真夜星は溜息をつく。
「最初からそう言ってください。我々も何も嫌がらせでこの国に泥を被れと言っているわけではないんだ。この国の住民も含めた全ての人類のためにすべきことを考えて提案しているだけなんだ。どうしてそれが分からない?」
「す、すまない……」
「世界の平和は薄氷の上で成り立っている。二十二世紀になってもどこの国も核を捨てていない以上、核戦争の予防は私が全世界にしたレーザー防御網に頼らざるを得ない。アンタらがさっさと平和のために身を粉にしてくれれば、俺の計画はもっと速く進むのに……」
苛立ちを真夜星は隠せない。しかし真夜星は公平だった。
「今回、泥をかぶってくれた礼は必ずします。次の軌道エレベーターは米国領海内に立てるとします。そこで得られる莫大な利益を差し出すとしましょう」
「本当か!?」
「嘘はつきませんよ。かつての貴方の座についていた者たちとは違ってね」
世界の支配はより盤石なモノになっていく。
彼は必要とあらば神にでも悪魔にでもなるつもりだ。
全ては一人の少女のために。
――――
フォローや応援、☆などをいただけると励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます