第7話 球技大会
真鈴のおかげですっかり回復した俺だが、では学校のほうではどのように扱われているのだろうか。
答えはシンプル。避けられている。
というか怖がられている。
中間、期末テストとあったが、俺に勉強を教えてもらいに来るのは数人程度だった。
前は他のクラスからも何人か、教えてもらいに来ていたのだが。
なので俺は真鈴のサポートに徹している。
真鈴の勉強会の参加者たちの問題集の間違え方から、その当人たちの考え方の傾向を見出してどのようなアドバイスをすればいいかを真鈴に伝えたりしていた。
真鈴は別に普通に参加すればいい、と言っていたが俺はそうは思わない。人殺しは怖いだろうから。
というわけで俺は人に避けられながらも平穏な学校生活を送っていた。
事態が動いたのは中間、期末テストと終って球技大会を執り行う日になってからだ。
俺は参加しなかった。といっても出席自体はしていた。真鈴の勇姿を見るためだ。
ちなみに参加しない理由は相手もチームメイトも怖がるだろうから、という理由以外にもいくつかある。
そもそも俺は運動性能が高すぎるのだ。
多分常人の二、三倍ぐらいは動ける。トップアスリート並みの挙動ができるだろう。これは元々俺が自分を鍛えるのが好きだというのもある。
二つ目に俺は運動神経も良すぎるのだ。
手にしたモノの機能を百二十パーセント発揮できる特技は、スポーツでも十二分に発揮できる。
体育の時間なんか、サッカー部にはサッカーで、バスケ部にはバスケで、簡単に勝利できてしまうぐらいに俺の運動神経は極まっている。
なのでこういう大会では公平を期すために俺は出ないようにしている。
幸いウチの校風はかなり自由で、参加するかどうかも選べるのでこれ幸いと真鈴の応援と観戦に回っているのであった。
そんな俺とは対照的に真鈴は二つの競技に参加していた。
バレーとソフトボールだ。
午前がバレーで午後がソフトボール。
そして真鈴も運動神経が良かった。
多分俺たちはスポーツIQも高いのだろう。真鈴も結構鍛えているみたいだし。
「がんばれー! 真鈴ー!」
俺は声を張り上げて応援していると、周囲がひそひそと小声で噂話をしていた。
特に興味はないのでシャットアウトする。
どうせ人殺しがどうとかだろう。
「(やっぱり宗片君って、戸崎さんの事好きなのかな?)」
「(やっぱりも何も、絶対そうでしょ! こうして応援もしているし‼)」
「(いや、私はむしろ戸崎ちゃんが宗片君のことが好きだと見たね。今回彼女が張り切っているのも、かっこいい姿を見せるためだよ)」
そうこうして彼女の活躍に集中している内に午前中のバスケが終わった。
午後からは外でソフトボールだ。
ちなみに彼女は優勝していた。凄い。
「真夜星、一緒に昼食を食べようか」
「おう。今日はどんなメニューなんだ?」
俺はもうすっかり彼女に餌付けされてしまっていた。
もちろん、こうして昼食をいただいているのだ。最初はお金を払おうとした。すると彼女はこう言った。
親友同士でお金のやり取りなんて無粋だろう? と。
なので俺はやり方を変えた。
たびたび二人でカフェを巡ったりラーメン屋を巡ったりするのだが、その時は基本的に俺が奢るようにしたのだ。
昼食を毎日ごちそうになっている――最近は二人分の弁当を作ってきてくれている。もはや感謝を通り越して、よくわからない感情が湧き上がってきている――事を考えればそれでも足りないぐらいだが、真鈴は未だに納得いってないらしい。
俺は外食の際は二人で商品を購入した際の、その購入した商品に対してお金が払っている。対して真鈴の昼食は材料費と真鈴の手間暇がかかっている。その上かなり高い確率で俺のリクエストを受け入れてくれている。なので俺のほうの借りがデカいと言って、説き伏せた。
そこまで言ってようやく渋々彼女は納得してくれた。
そんな感じで昼食を楽しみ、午後に移る。
午後は外でソフトボールだ。
といっても参加するのは真鈴で俺は観戦だが。
ちなみに男子も色々やっており男子は外でサッカーを行っていた。ウチの学校はかなりグラウンドが広いので、色々な協議ができるのだ。
そんな最中に一つアクシデントが起きた。
「あ、倒れた」
「西表君が倒れた!」
熱中症で倒れた生徒が出たのだ。
これは早急に保健室に運ばなければならないだろう。
しかし西表君は相撲部。身長は俺より低いが体重は一・五倍以上あるのだ。
容易に運べる人物ではない。
「あ、俺が運ぶよ」
「え」「お、おう」
俺以外には。
というわけで西表君を背負ってグラウンド脇を横断していく。
手足の関節を上手く使って背負っている西表君が揺れないように気を付ける。そのまま保健室に直行。
西表君を寝かせる。
保健室の先生はいないみたいだ。なので俺は、勝手に彼の体を冷やすことにした。備え付けの冷蔵庫にはすでに保冷剤がいくつか入っていた。
これは幸いと、俺はそれらを彼の体の要所要所に置いていく。
そして買ってきたスポドリを西表君に飲ませてやる。
「飲めるか?」
「すまねぇ」
「いいよ。別に」
「そうじゃなくて」
西表君は改まった様子で、俺に告げた。
「お前はただひたすらいいやつなのに、俺たちはお前を避けちまった。俺たちはお前さんに命を助けられたっていうのに」
ろくに礼も言ってねぇ。
と西表君はベッドの上で正座をした。
そのまま深々と頭を下げる。
「助けてくれてありがとう。宗片」
俺の顔はひどく自然に綻んだ。
「どういたしまして。体調は回復傾向にあるな。それじゃあ保健室の先生を呼んでくるから、ゆっくり休んでおいてくれ」
そんな感じで俺の球技大会は、人助けをして終わった。
□
そこからだ。周囲の見る目が変わったのは。
何人もの生徒が俺にお礼を言いに来た。
特に多かったのは真鈴を敵視していた奴らだった。
彼らは親が彼女のせいで職を失い、それでも負けじと勉強してこの進学校に入った。
そんな自分たちの気も知らずに呑気に学校生活を謳歌している彼女が許せなかったらしい。
けれど、彼女が自分たちを守るために一糸まとわぬ姿になったことで考えを改めた。彼女は気高いのだと。
こんな自分たちを守るために、手を尽くしてくれた彼女にはもう頭が上がることはない。そしてそんな自分たちのために人殺しの汚名を被ってくれた俺にも、感謝を伝えたい。
とのことだった。
俺はそれを受け入れた。
彼女も同じだったらしい。
きっとここまでやってようやく俺たちの学校生活に真の平穏が訪れたのだろう。
とても喜ばしいことだ。
真鈴は俺以上に喜んでくれていた。
「本当に良かった。また君がこの学校に馴染めて」
「以前と完全に同じとは言えないけどな」
そうなのだ。
一つ問題点があった。
何と俺のファンクラブができてしまったのだ。
それも非公式である。
そのせいか最近盗み撮りされてしまうことが増えた。
俺なんかの写真を撮って、一体どうするというのだろうか。
そんな感じのことを真鈴に相談すると、真鈴はなぜか少しうろたえた様子で、放っておけばいいといった。
一過性のモノだからすぐに飽きるだろう。それまで下手に動くべきではない。下手に拒絶して反転アンチなられても困るだろう、と彼女は言った。
どことなく怪しい気配がしたが、彼女の言うことなので俺は素直に信じることにした。
何はともあれ、テロリスト襲撃から始まった一連のあれこれはこれでようやく清算できたのではないのだろうか。
このまま学校生活を三年間謳歌できるといいなぁ。
俺は無邪気にそう考えていた。
――――
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