第4話


死に物狂いで働いた。

というか死にかけた事もあった。

魔物を運んだり、毛皮を剥いだりもした。親方の分まで重い荷物を運んだりした。

辛ぇけど、国を造る仕事だって、ちょっとプライド持ってたけど、考えてみりゃ殆どが補修作業じゃねーか。


道具使用料とかよォ、事務所修繕費とかも、おかしいんじゃねえの!?


辞めてやる・・・マジで。

この一ヶ月を返してくれ!


俺は脳内でそんな気合いを入れる。

しかし現実ではビビりつつ事務所に到着した。気合い入れなきゃ。

初日よりも引き戸を勢いよく開けた。初日のことを思い出した。考えてみりゃ、辞めるやつが多い会社ってのはろくなもんじゃねーな。


「親方ァッ!」


親方は1階の倉庫にいた。俺の勢い良い挨拶に少し驚いていた。どうやら、今日は機嫌が良いみてーだ。

つーか、この親方の機嫌の良し悪しには大分振り回された。


「どした?」

俺の勢いの良さに親方は何故かビビっていた。給料について、負い目があるのかもしれない。


今は言える。チャンスだ。


「親方。辞めます。仕事」

「あそう。じゃあな」




ポクポクポク・・・チーン。




ん?あれ?

虚無の時間が流れる。俺の退職宣言に親方は動じない。


「えっ・・・」何も言う事ないの?親方!?と俺は突っ込みたくなる。

「給料が不満なんだろ」

「あっはい・・・」

「そうやって辞める奴を何度も見て来た。お前もそうなんだな」


「そー・・・っすね・・・」

明らかに親方のテンションが下がっていて、言葉に詰まってしまう俺。


「短い間だったが、どうもな」

「あはい・・・」


いやいやいやいやいや!!!!

納得いってない事、そのままにできねー!


「親方!最後に聞かせてくださいよ!道具使用料とか事務所修繕費とか、あれ、なんなんすか?つーか、俺、魔物の毛皮剥いだりもしましたよね?あの金、どうなったんすか?」


親方はすうっと鼻で息をする。膨らんだ鼻の穴が元のサイズに戻ろうとした時、怒鳴り声が響く。


「うるせぇッ!!!!!」


声で殴られたのかと思うほど、身体のどこかが痛くなる。ああ。考えてみりゃ・・・。いや、確かにお世話にはなったけどさ。


こんな怒ってばかりのヤツ、何がいいんだよ。


「・・・う、うるせえ、じゃねーよ・・・働いたんだぞ。そういうの・・・思い出した。ピンハネって言うんだ。ピンハネじゃねーか!」

俺は両手をグーにして必死に抵抗した。


「ピンハネだァ?ちゃんと職業案内所の書類にはキッチリと記載してンぜ?お前が見てねぇだけだろうがよ!」

親方はそう言って、すぐさま紹介状を取り出して俺に見せつけてきた。


道具使用料、事務所修繕費についてしっかりと書かれている。

なっ、何ィイイ!!!


なすすべなく、黙る俺。

いや、まだあるぞ。


「だとしても!だ!魔物の件は!?魔物運ぶなんて仕事じゃねーぞ!それに毛皮はどうした!馬鹿野郎!どうせ売り飛ばしたんだろ!」


そうだ。

突っ込まなかったけど、親方はギャンブル好きだった。賭場に行った話を時折喋っていた。

きっと毛皮を売り飛ばした金でギャンブルをしていたんだ。翌日、機嫌が悪かったのは、ギャンブルに負けたから。


というか、そもそも、その日によって態度が違うのも、前日のギャンブルの結果じゃねーか!


「ああ!何が悪い!」

「ああん!?」


いや、何が悪いかと言われると・・・あれ?


「普通!アレだろ!毛皮売り飛ばした金は手伝った俺にも!支払われなきゃ可笑しいだろう!」

「そんな事は紹介状にゃ、書いてねーぜ?」

「お、親方ぁ・・・そりゃあねぇよ・・・」


「仕事内容にな、その他雑務って書いてあンだよ!ボケェ!」


い、きかん・・・親方が馬鹿だと思っていたけど、なんかやられちまったよ俺。

はは、おろろ、逃げるか。


紹介状に嘘偽りはなかった。


「うるせぇ!クソ!」


そう吐き捨てて、俺は振り返る。早いところ帰るか。そうだよな。書面に書かれている事、それが全てだ。


悔しいけど・・・


いや、悔しいから、やられっぱなしは嫌だ!


俺は倉庫に置いたままの道具箱からハンマーを取り出した。その姿に親方が少し冷静な顔になる。


「正気かお前・・・」


「やってやるぜ。仕事のお陰で腕力もついたしな・・・」


俺はハンマーを両手で持ち、思いっきり振り切った。それを壁にぶちつけた。豪快な音。古い建屋全体がミシミシと音を立てていく。



「親方ァ!道具の利用料もよ、事務所の修繕費も徴収してるもんなァ!!?間違ってブッこわしちまったから、直しとくといいぜ!」



親方は唖然としていた。




そして、俺は職を失った。



壁は思ったより、壊れなかった。





「シスルー、仕事はー?」

るろうに荘の優雅な昼時。

セイタが俺を見つけて語りかけて来た。


「やめた」

「えっ」

「もう、肉体労働なんかしねー」

「そっか・・・」


何故か俺よりも落ち込んでいるセイタ。


「メシでも食いにいくか?」

「シスルの奢り?」

「バカ言うな、節約しなきゃなんねーんだぜ」

「しょーがない。僕のバイト代で退職祝いだね」



るろうに荘を出て

ふたりで街を歩く。


昼の街は賑やかだ。


ここは異世界。


この景色は・・・

この国は・・・

誰かの手によって造られている。

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