第4話 健二
竹さんが帰ると、お志麻さんは屋台の片付けを始めた。
「もう
声を掛けたのは〈月と萩〉のマスターだ。
「あら、健さん。……じゃない、マスター。変な客が来たから早めに片付けようと思って」
「変な客って、もしかしてアベックか? 水商売風の若い女連れの」
「ええ、そう。どうして知ってるの」
「……すまない、俺が紹介した」
「えっ! マスターの紹介だったの?」
「旨いラーメン屋を知らないかって訊くもんだから、ここを紹介したんだが……何があったんだ?」
「大したことじゃないんだけど、作ったのに食べてもらえなかったから」
「すまない」
「マスターが謝ることないわよ」
「罪滅ぼしに
「うむ……どうしようかな」
屋台を片付け終えたお志麻さんは、考える素振りで
「うふふ……付き合ってあげる」
笑いながらそう言ってジャケットの袖に腕を通した。なかなかいい雰囲気じゃねぇか。っと、そのめぇに肝心なマスターの名前を紹介すんのを忘れてやした。
マスターの名前は萩原健二。で、お志麻さんが健さんて呼んだ訳だ。実はこの二人、色々訳ありでしてね。ま、その辺のとこはぼちぼち話すとして。この先が気になるんで、話を進めますが。
やって来たのは
「──親父さんの具合はどうだ?」
「うん……治りそうで治らない」
健さんをチラッと見ると、カシスオレンジを口に含んだ。
「早く
健さんはウイスキーの水割りを飲みながら、お志麻さんの横顔を見た。
「竹さんも同じこと言ってたわ。うふっ」
お志麻さんは小さく笑うと、グラスに口を付けた。
「竹さん、来てたのか?」
「ええ。私の思ってることを竹さんが代弁してくれたわ。さっきのお客に」
「俺が紹介した客のことか?」
「ええ。黙って聞いてりゃいい気になりやがって、文句があんなら他で食いやがれって」
「竹さんは
「あら、マスターだって、生粋の江戸っ子じゃない」
「そう言うお前も、……あ、ごめん。昔の呼び方をしちまった」
「別にいいわよ」
酒で頬をピンク色に染めたお志麻さんが潤んだ目を向けた。
「ン! ン! そう言うお志麻さんも生粋の江戸っ子じゃないか」
「か。生粋同士だね。乾杯っ!」
お志麻さんが健さんのグラスに自分のグラスを付けた。
「もう酔ったのか?」
「酒が弱いの知ってるくせに」
お志麻さんが
「……だったな」
「さてと、帰ろ。ごちそうさま」
お志麻さんが腰を上げた。
「おい、待てよ」
健さんも慌てて腰を上げると、カウンターの中でグラスを拭いている店主の前に二枚の紙幣を置いた。
「ごちそうさま」
「いつもありがとうございます。またお待ちしています」
健さんが急いで後を追うと、お志麻さんは
「相変わらずせっかちだな」
「父さんからもよく言われる。もう少し女らしくしないと嫁の貰い手が無いぞって」
「……親父とのことが無ければ──」
「その話はやめてよ。もう昔のことじゃない」
お志麻さんが
「……すまない」
「まるで、中年のロミオとジュリエットだね、私たち。ふふふ」
ライトアップで浮かび上がった浅草寺の美しい
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