#28
――王宮内にある大広間でことの後、民たちはそれぞれ戦える者とそうでない者に分けられた。
その判断はマルジャーナにとって不本意ながらも、イザットに従う兵たちにそれぞれやってもらうことに。
「早く前へ出ろ! こうしてる間にも敵がいつ攻めてくるかわからないんだからな!」
大広間のそこら中から兵たちの大声が響き渡る。
思うように動いてくれない民衆に苛立つ。
そんなこともあってか、先ほどの歓声が上がっていた空気から一変し、大広間を緊張感が埋め尽くしていく。
そのような雰囲気の中で、兵たちの適性検査は止まることなく続いていた。
それは、あくまで本人の意思で武器を手に取ることを重視しての審査だったが。
立っているのがやっとの老人や、重い物を持ち上げることができない女子供は、とても戦力として数えられないためはじかれた。
しかしそれでも士気が高い民たちは戦いたがった。
そこでマルジャーナは、はじかれた者らに後方支援を頼むことで、彼ら彼女らの不満を解消させた。
後方支援――つまり
必要なものを、必要な時に、必要な量を、必要な場所に補給することは、敵に負けないためだけではなく、なによりも生き残るために必要なことだった。
とは言っても、民たちにできることは限られる。
実際に目の前で重傷者や死人を見れば、混乱して何もできなくなる者も多く出てくるだろう。
正直いって頼りにできないのが本音だ。
民たちの協力に喜びながらも、マルジャーナは皆の扱いに
そんな女王の心中を察したのか、イザットが彼女に声をかける。
「マルジャーナ様。一つ、私に案がございます」
マルジャーナが話すように言うと、イザットはその案について話し始めた。
彼の考えた作戦は、戦える者にもそうでない者にも全員に武器を持たせ、城門の外で待機させるというものだった。
その時点ですでにマルジャーナの表情は強張っていたが、彼女はイザットに話を続けるように言う。
「一応、最後まで聞いておこうか……」
「では続けさせてもらいます。敵はまず城門の外に待機している民たちを狙うでしょう。そこを城壁の上から狙い打つのです」
イザットの案はこうだ。
武装商団アルコムが現れたとき、城門の前で武器を持った集団がいれば、最初にそこから攻撃を始めるはず。
そのときに、予め城壁の上に待機させていた弓兵を使って敵を一斉に射殺す。
当然、民たちにはこちらの放つ矢が届くところで戦ってもらう。
味方の矢が民たちに当たる可能性はあるが、これでかなり敵の数を減らすことができる。
――と、イザットはマルジャーナが
すべてを聞き終えたマルジャーナは、握った拳を震わせながら彼に言った。
そんな作戦ができるはずがないと。
国を、民を守ろうとしているのに、そんな真似ができるはずがないと。
こぼれそうな怒気を抑えながら、けっして感情的にならずに却下した。
マルジャーナにもこの案が、イザットが国のことを考えての作戦だとわかっている。
だからこそ声を荒げることなく、ただ静かに承諾しなかった。
「次はこっちの話を聞いてもらってもいい?」
「僕たちでちょっと皆の戦い方を考えてみた」
そこへワヒーダとアシュレが現れ、彼女たちもマルジャーナに提案があると言った。
するとイザットは腕を組んで、二人を
その様子は、客人が国の大事に口を出すなとでも言いたそうだった。
そんなイザットの態度に頭を抱えるマルジャーナだったが、彼女は肩を落としながらも、二人の話を聞くことにする。
「僕たちが考えたのはこういうの」
ワヒーダではなく、アシュレが説明が始めた。
そのせいかイザットの表情はますます厳しいものになったが、白い髪の少女は気にせずに話す。
「ここにいる皆、戦争なんて初めてだよね。なら、こうしたらいいかなと思って」
二人が考えたというのは、武器を持ったことのない民の戦い方についてだった。
まずアシュレが思ったのは、次に武装商団が襲ってきたときに、城壁は役に立たないということだった。
それはアルコムの幹部であるリマーザ·マウトが、城下町に現れたことから十分に考えられる。
つまり敵は、城壁や城門を破壊せねばならない攻城戦をしなくても、市街戦に持ち込める。
市街戦になれば、ほぼ守る側の負けが確定する。
その理由は、大通りや広場での白兵戦が主になるからだ。
野戦に比べて狭く、戦闘が流動的になるために陣形が組めず、数で劣るならば弓兵を頼りたいが乱戦では活躍し辛い環境だ。
敵に突撃されればあっという間に接近され、敵に余裕があれば街中に火をつけられ、それだけでほぼ負けが確定する。
「さっきから黙って聞いていれば……。子どもに戦争の何がわかるというのだ!」
イザットがアシュレの予想は妄想だと声を張り上げた。
だが、それでも白い髪の少女は
「知識に子どもか大人かは関係ないと思う。そりゃあなたのほうが経験豊富なのかもしれないけど、皆の命がかかってるのに、危ないと思ったことを言わないのはおかしくない?」
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