#7
白い髪の少女がいうに、精霊たちが集まることで砂漠に湖や草木が生えたりもするが。
それと同時に飼っている家畜――ラクダやヤギ、羊などが奇形で産まれたり、村人の中には呪われてしまう者もいるようだった。
わかりやすい呪いとしては、眠ったときに必ず悪夢を見る。
他には女なら子を産めない、男ならば生殖機能を失うなどがよくある症状らしい。
「その中でも特に精霊と結びつきが強い人……いや、この場合は強い呪いと言ったほうがいいかな。そういう人は不思議と外へ出ても迷わず村にたどり着けるみたいだよ。まあ、僕が何かしたわけじゃないから、村の人たちの呪いを解いてあげることはできなけどね」
「じゃあ、村の連中も背に腹は代えられずにあんたをここに閉じ込めているってわけだ」
逆に考えれば、いくら呪われようとも、それだけ水が必要であるということに他ならない。
おそらくこの村は、湖から水を汲んでそれを売って生計を立てているのだろう。
最初こそ白い髪の少女の扱いに違和感があったワヒーダだったが、湖や草木を生えさせるだけではなく、村人たちが呪われるという話を聞いて納得できた。
そう――。
このハシャル村にとって、白い髪の少女は砂漠にオアシスを出現させる生き神などではなく、悪霊や悪魔などと同じ扱いなのだ。
そのために牢へと放り込み、たとえ多少の被害があろうとも囲っておく必要がある。
だが、幼い少女を陽の当たらない檻に閉じ込めておくなど、聞くだけで嫌になる話だ。
「あんたはそれでいいのか……?」
訊ねずにはいられなかった。
まるで他人事のように語った少女の言い方は、今の自分の状況に、何の怒りも不満さえも感じていないように見えたからだ。
白い髪の少女はワヒーダの問いに、目を見開いて小首を傾げる。
「変なこと言うね、あなたって。それとも村の外じゃそういう風に考えるのが普通なの?」
「あん?」
会話が
互いに何について疑問を持って話しているのか、わからなくなるくらい。
最初からそうだったかもしれないが、二人はいよいよ混乱し始めていた。
「だからね。なんで“善し悪し”で考えるのかなって。あなたが僕の置かれている現状に苛立たないのかって言いたいのは伝わったんだけど。子どもが親を選べないように、ただ自分の生まれた環境がハズレだったってだけでじゃないの?
こいつは気がふれているのか。
きっと太陽を浴びてないせいで、おかしな考え方になったのだ。
いや、そう達観したような考えになるしかなかったのかもしれない。
――そう思わずにはいられないワヒーダだった。
「バカなこと言うなよ!? 他人の都合でこんなところに閉じ込められて、そんなんで納得なんてしてんじゃねぇ!」
「いちいち大声を出さないでくれる?」
「大声も出るさ! あんたみたいな子どもが、こんな惨めな目に遭ってるのを見ればな!」
白い髪の少女は腕を組み、
彼女の態度に
ここから逃げたいと思わないのかと。
「ここを出て、どこへ行けばいいの?」
「そんなのどっか違うとこだよ! もっとマシな服を着て、美味いもん食って、自分の好きなように生きたいと思わないのか!?」
「なんで僕がそんなことを望まないといけないの?」
「村の連中がそういう暮らしをしてるからだよ!」
どうしてこうも声を荒げてしまうのか。
ワヒーダ自身にもよくわからない。
だが白い髪の少女の答え方に、彼女は苛立ちを感じずにはいられなかった。
「あんたは知らないだろうけどな。この村の連中は、余所が明日飲む水にすら困っているってときに、自分たちだけ好きなだけ水を飲んでイイもんを食ってんだ。しかもあんたが逃げたり横取りされたりしないようにと金貨をバラまいて、傭兵まで雇う有り様だぞ」
聞いてもらおうと落とした声が、再び熱を帯びてくる。
「それと比べてあんたはどうだ!? 連中のために太陽も空も見えない場所に閉じ込められてよ! まともなもん食ってんのか!? ベットも毛布もないとこで寝て身体は痛くねぇのか!? 村の連中はあんたよりいい暮らしをしてるのに、どうしてあんたにはそれが与えられねぇんだよ!」
ワヒーダの熱弁も虚しく、白い髪の少女は身を縮めるだけだった。
「僕に村の人たちと同じことをしろ……そういうこと?」
「ああ、そうだ! いや、違うな……なんていうか……ともかく、今の話を聞いても、まだこっから出たいと思わないのかって話だ!」
「……ごめん、眠くなってきた。力を使うといつもこうなるんだよね。あと、久しぶりに喋り過ぎたせいかも……」
「はぁッ!? おい、なに言ってんだよ!? ちゃんと答えろ! さっき起きたばっかだろうが、あんたは!」
ワヒーダが鉄格子を掴んで喚いたが、白い髪の少女は牢の隅で横になってしまった。
背を向けながら寝っ転がった彼女を見ながら、ワヒーダはまだ吠え続けていたが――。
「今日はありがとぅ……。また起きてから……話相手になってくれたら嬉しぃ……」
少女のその言葉を聞くと、もう声を荒げるのを止めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます