第91話
パーティーハウスの中にいてエルザやライザ達にやいのやいのと言われるのは面倒なので、アイリス・ウィドウ・ルルの三人と一緒に街へ繰り出すことにした。
「しっかし、なんだか怒濤の展開だったな……」
「それは……正直私もびっくりしてるよ。まさかこんな形に落ち着くなんて……」
ウィドウが俺の右手をきゅっと握りながら、そうつぶやく。
まんざらでもなさそうな顔をしていたので握る力を少しだけ強めると、それより更に一段強く手を握られた。
握力はめちゃくちゃ強いのに、手はほっそりとしている。
「あ、ごめんね。嫌だよね、こんなゴツゴツした手じゃ」
「そんなことないぞ」
指先の剣ダコが女の子らしくなくて嫌いだとウィドウはよく言うが、俺はそんなことはないと思う。彼女の硬い指先は、今まで剣とまっすぐに向かい合ってきた証拠だ。
それに別に言うほど硬いわけじゃないし。
「普通にやわらかい、女の子らしい手だと思う」
「冒険者なんかやってれば、どうしても手の皮は厚くなるしマメもできるしね」
そう言って俺の逆の手を取るのはアイリスだ。
弓を引く彼女は、指先の皮が厚い。
ただじっと見ていればわかるくらいの差でしかない。
女の子と手を握った経験がはるか彼方な俺からすると、なんら違和感を覚えるものではない。
両手に花とはまさにこのこと。
ちなみに一人出遅れたルルは、ひっつくように俺の後ろをくっついて歩いている。
彼女に関しては、ちょっと複雑だ。
何せルルは、俺の初恋の人でもあるメルレイア師匠に結構似てるからな……。
この胸の高鳴りの理由がルルという女の子に惹かれているからというのも事実だが、初恋の人に似ているからという理由がないと言えば嘘になる。
女の子としてかわいいとは思うけど、ウィドウやアイリスとは違い、俺はルルのことをそういう目で見たことはほとんどなかったからな(ゼロではないのは、男の悲しい性というやつである)。
「タイラーさんは、平気そうですね」
「いや、全然そんなことないぞ?」
ポーカーフェイスで上手いこと取り繕えているのかもしれないが、俺の内心はかなりバクバクだ。
何せ今までも一緒に街に繰り出すことはあったけど、こんな風にゼロ距離で手をつないだりすることはなかったからな。
お互いの体温がわかるほどのゼロ距離なのだから、ドキドキしない方が難しい。
「えいっ!」
「――おおっ!?」
一人だけ手をつないでいないのが不満だったのか、ルルが俺の背中に飛び乗ってくる。
く、首が絞まるっ!
咄嗟に身体強化を使って、なんとかこらえた。
あってて良かった身体強化。前世の俺だったら、無様に倒れてしまっていたに違いない。
「とりあえず買い物に行きましょう! 今日の夜ご飯の食材を買わなくては!」
ルルが俺に対してどんな印象を抱いているのかはわからない。
魔法の師匠という側面も結構強いので、今すぐ恋仲という関係になれるかと言われると難しいかもしれない。
けどルルも俺もお互いのことを好き合っているのは間違いなくて。
きっとその関係がウィドウやアイリス達とは違うというそれだけのことだ。
幸い『戦乙女』の公認も得られたおかげで、急いでしなければいけないような状況でもない。
ルルとは俺達のペースで、前に進んでいけたらと思う。
「良ければ今日の夜ご飯は、俺の家で食わないか?」
「お屋敷? 別に私は別にいいけど……」
「なるほど、エルザやライザの前ではできないような話もあるものね」
「まあ……そんな感じだな」
今回言っている家というのは当然ながら定期的に彼女達と向かっている前世の家のことではない。
俺が連れて行こうとしているのは――今世の俺が暮らしている、1DK駅チカのマンションだ。
四人で何かをするにはちと狭いが、こういうのは実際に見てもらった方が早いからな。
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やりこんだゲーム世界にダンジョンマスターとして転生したら、攻略に来る勇者が弱すぎるんだが ~こっちの世界でも自重せずにやりこみまくったら、難攻不落のダンジョンと最強の魔物軍団が出来上がりました~
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