第92話


 俺はちょっとだけ甘く見ていた。

 女の子の買い物の長さ、というものを。


 基本的に俺は必要な物が出た時に、それを買いに行くことが多い。

 けど女の子にとっての買い物というのは、そういうものではない。


 女性からすると買い物は必要性に駆られてするものではなく、この服を自分が着たらどうなるかなとか、この食材を使ったらどんな料理ができるかなと、色々と想像を膨らませながら楽しむものなのだ。


 今までもちょっと長いなとは感じることはあったが、あれでも俺に合わせて彼女達は配慮をしてくれていたらしい。


「ねぇタイラー、あの耳飾りすごいきれいじゃない?」


「タイラー、あれ美味しそうだよ」


「タイラーさん、蚤の市やってますよ! 古本の中に掘り出し物があるかも……」


 三人が三人、そんな風にはしゃいで回るものだから、俺はもうイラの街を端から端まで歩き尽くすんじゃないかってレベルで歩き回ることになった。


 同じところを何度行き来したかわからないし、色んなものを買ったり食べたりしているからお腹はパンパンで財布はすっからかんだ。

 スマホを持ってたら、歩数計のメーターが凄まじいことになっていただろう。


 三人寄れば姦しいという言葉があるが、女性が三人で買い物をしている時のパワーというのはなかなかに凄まじい。

 たった一人しかいないこの中では少数派の男では下手に文句を言えないような、独特の空気感みたいなものがあるのだ。


 疲れていると正直に言うわけにもいかず、彼女達が満足するまで買い物に付き合うことになった。


 今後もこれを繰り返すとなると……大変そうだ。

 今まで想像上の生き物とかと同列の存在だったハーレムが、急に現実味を帯びてきた。

 まあこんなにかわいい女の子達と付き合えるんだから、これくらいのことは甘受しなければなるまい。


 とまあ、くたくたになりながら日が暮れるまで付き合うことで、なんとか買い物は終えることができた。


 一度パーティーハウスに戻り荷物の整理をしてから、エルザ達用に買ってきた夕食を渡し、そのまま一度俺の屋敷へ。


 そこで俺はようやく、皆に隠していた秘密を打ち明けることにした。


「実は俺には……前世の記憶があるんだ」




「前世?」


「なるほど……」


「それは……輪廻転生って事ですか?」


 もっとパニックになったり嘘を疑われたりするかと思ったが、三人の反応は俺が想像していたよりもずっと淡泊だった。


 たしかに考えてみれば、ディスグラドでは輪廻転生についての概念は存在している。

 日本なんかでもあったように身近に具体例はなくとも、なんとなくあるのだろうと誰もが信じている感じでな。


 彼女達からすれば目の前の人間が転生したと聞いても、それほど驚愕することではないのかもしれない。


「ああ、まさにその通り。皆は俺のことを不思議に思ったことはないか? なんで『収納袋』を作れるのか、なぜ星魔法を使うことができるのか。それと手前味噌で恐縮だが……なぜ高い戦闘能力を持っているのか、とかな」


「もちろん、疑問に思ったことはあります。タイラーさんほどの魔術師であれば、その名が世界に轟いていないわけがありません。それにタイラーさんの師匠や人間関係を始めとして、何も出てこないのも不思議でした」


「実は依頼でガルの森に行く前にライザが身辺調査をしたこともあるんだけど、タイラーがガルの街に来るまでの足取りはほとんどつかめなかったわ」


「何か事情があると思って詮索しないようにしてたんだけど……予想してたよりすごいのが出てきたね」


 なるほどな……たしかにどこからともなく現れた俺の身辺調査くらいのことはされるか。

 今になって知る事実だが、俺って信頼度とか結構なマイナスからのスタートだったわけだな。

 自分のことながら、よくそこから巻き返せたものである。


 俺は前世のことについて、彼女達に話をすることにした。

 自分のことを話すというのはなかなか慣れないもんだ。

 さて、何から話したものかな……。







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