第89話
そのままルルに話をして、そのままウィドウが帰ってくるのを待とうとしたんだが、アイリスからなぜか待ったがかかった。
「私が話をするから、タイラーは居ない方がいいわ」
「なんでそうなるんだ? 俺が話を通すのがスジだと思うんだけど」
「こういうのは女性同士でやった方がいいことが多いの、下手にタイラーに首を突っ込まれたら、ややこしくなるのが目に見えてるわ」
目に見えてるんですか、さいですか……。
アイリスは確信がありそうな口ぶりだったので、俺はおとなしく彼女の言に従うことにした。
たしかに俺は弁が立つ方ではないから、上手いこと理論的に二人を説得して納得してもらうなんて器用なことはできないだろう。
かといって感情的に押し通すことができるかと言われると、それも無理だろうし……たしかにそれならいっそ、アイリスに任せてしまった方がいいのかもしれない。
男としてはめちゃくちゃ情けないような気もするが……そこはほら、適材適所って言葉があるじゃろ?
パーティーハウスにいるなと言われたので、素直に家を出る。
自宅でいても悶々とする気しかしなかったので、『可能亭』の近くへ飛ぶことにした。
さっきのアイリスの言葉が、脳裏をよぎったというのもあるかもしれない。
もしかすると今後、アンナの面倒を見るのは難しくなるかもな。
俺としては弟子の一人ではあるから、もう少しゆっくりと見ていきたいところではあったが……。
「あ、タイラーさん!」
「よっ」
アンナは受付に座っていた。
ちらっと手元を見ると、どうやら俺が渡していた教材を使って復習をしていたらしい。
「聞いてくださいタイラーさん、ようやくクリエイトウォーターで温水が出せるようになったんですよ! これで我が家は薪いらずです! オプションで湯桶だけじゃなくてお風呂も提供できる日もそう遠くないかもしれません」
「おお、そうかそうか……」
クリエイトウォーターは水属性の魔法だが、そこに火属性を組み合わせることで水温を上げることができるようになる。
本来であれば熱湯にして相手にかけたりするような使い方が主流だが、魔法の力で宿をミリ立てたい彼女のために俺は少しデチューンして、40℃前後の湯を出せるようにする魔法を教えていた。
二属性を使うこともあり魔法としては少し複雑になったんだが……どうやら会得ができたらしい。
アンナは魔法使いとして、特別才能にあふれているわけではない。
純粋な才能だけで言えば、彼女より優れているものはイラの街にもたくさんいる。
けれど彼女には、魔術師に最も必要な才能――努力を続けることのできる才能がある。
ルルやアイリスを生まれ持っての天才とするのなら、アンナは秀才になれるだけの素質を持っていると言える。
長年研鑽を積めば、ひとかどの人物くらいにはなれる。
メルレイア式の魔法というのは、そういう風にできているからだ。
俺自身メルレイア師匠の門徒の中ではそこまで才にあふれていたわけではないので、なんとなく彼女には親近感を覚えてしまっているところがあった。
「これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
キラキラと目を輝かせているアンナは、『可能亭』を繁盛店にすべくその瞳に野心を燃やしていた。
い、言いづれぇ……俺の女性関連の問題のせいで、魔法を教えられなくなるかもだなんて。
たしかにアンナにもこれだけ言いづらいなら、ウィドウやルル達には更に切り出しづらかったに違いない。
俺はアイリスの慧眼に頷きながら、アンナに話をするのを一旦やめておくことにした。
アイリスが言う通り、俺だけで話を進めたらややこしくなる気しかしなかったからだ。
ただとりあえず、一度始めたからには最後までアンナに魔法を教えてやりたい。
そんな風に思いながら俺は彼女に風と火の複合魔法であるヒートウィンドをデチューンしたドライヤーの魔法を教え、また一つ『可能亭』の宿としてのクオリティを上げることに成功するのだった――。
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やりこんだゲーム世界にダンジョンマスターとして転生したら、攻略に来る勇者が弱すぎるんだが ~こっちの世界でも自重せずにやりこみまくったら、難攻不落のダンジョンと最強の魔物軍団が出来上がりました~
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