第82話


 手合わせはイラの街の外でやることになった。

 俺とダツラさんが本気で戦うとなれば、流石に目立つからな。

 勝手知ったるガルの森の中で、人目から隠れた状態で戦わせてもらうことにする。


 とりあえず空いている空間を見つけたら、土魔法を使い軽く樹を何本か抜いて『収納袋』にしまっていく。

 最後に軽く整地をして即席の空き地を作ってから、街で待っているダツラさん達を呼ぶことにした。

 ちなみに危ないので、アヤヒさんとウィドウはかなり距離を置いて観戦してもらうことになっている。


 本気を出してたら、流石に周りに気を遣っている余裕もなくなるだろうからな。


「ほう……これなら気兼ねなくやれそうだな」


 空き地を見たダツラさんがにやりと笑う。

 肉食獣が餌を見つけた時の獰猛な笑みに、俺は苦笑を返す。


「さて……それなら細かい試合の内容を決めよう。この円形のステージの外へ出てから十秒が経過したら、そちらが負け。また、相手に参ったと言わせるか気絶させればその時点で勝ち……そんなところでどうだ?」


「ええ、大丈夫です」


 俺とダツラさんは、あらかじめ引いてある線の上に立って互いに向かい合う。

 俺は腰に提げているバスタードソードに手をかけ、ダツラさんは背中に背負っている大剣を正眼に構えた。


 デカいな……目算だが、『魔導剣シャリオ』と同じくらいの大きさ。

 ウィドウの時と同じで、得物の相性はあちらに有利か。


「遠慮はいらない、お前の力――見せてみろっ」


「ええ、任せてください」


 俺達は互いに向かい合い、相手を見つめ……


「試合――開始ッ!」


 遠くから聞こえてくるウィドウの声と同時に、激突した――。




 試合開始の声が聞こえると同時、即座に身体強化を発動させる。

 当然ながら出し惜しみはなしの全力だ。


 同時に俺は前に出た。

 大神流の師範代との戦いなのだから、まずはこちらの技を見せなければ失礼にあたる。


 だがあちらは重く、取り回しも悪い大剣。

 初撃はこちらが取れるとばかり思っていたが――


(速いッ!)


 俺の予想は見事に外れた。

 試合開始の声が聞こえるまで凝視していなければ気づけなかったであろうほどの初動の早さ。

 俺が一歩進んでいる間に、ダツラさんは誇張抜きで二歩は進んでいる。


 機動力が……違いすぎるっ!


「おおっ!!」


 咄嗟に腕を上げると、剣を置いた箇所へ強かに大剣が打ち込まれる。

 攻撃の衝撃を受けて身体が地面にめりこむが、その間に次の攻撃がやってくる。

 続いて放たれたのは、質量を活かした力任せの横薙ぎ。

 両手で持ったバスタードソード剣の腹で受ける。


 得物へのダメージを気にしている余裕なんてない、全力の受けだ。

 一撃を防御しただけで、俺の身体は思い切り横に飛んだ。

 円形の空き地の端のあたりまで飛ばされながら、なんとか足で着地する。

 一発防いだだけで、腕がジンジンする。

 これは……想定以上だな。


(身体強化の出力が違いすぎるな……まさかスペックでも負けてるとは)


 魔力を体内に循環させることで肉体の出せる出力を上げる身体強化。

 魔力操作に関しては前世の俺すら超えておりウィドウに勝るだけのスペックを出せているはずの俺が、機動力でも攻撃力でも圧倒されている。


「さっきまでの、威勢はどうしたっ!」


 グーパーと手を開いてしびれを取ろうとしていると、ダツラさんは再びそのあり得ない速度の俊足でこちらに接近してきた。


 俺はその剣を、流すように受ける。

 彼の剣と真っ向からやり合っていては、こちらが先に限界を迎えてしまう。


 怒濤のごとく押し寄せてくるダツラさんの攻撃を、必死になって捌いていく。

 相手の攻撃の勢いに対し、こちらの一撃で対抗することは難しい。

 全力を出しても拮抗させるのが精一杯なので、とりあえず勢いを殺すことに終始しながら、チャンスがやってくるまで耐え続けるしかない。


 ダツラさんの戦い方は、ウィドウのそれよりもはるかに単純だ。

 鍛え上げた鋼の肉体の能力を、練達の身体強化で乗算して強化し、圧倒的な力とスピードで戦いを支配する。


 速く、そして一撃が重い。


 ダツラさんがやっていることは突き詰めて言えばその一言に尽きる。

 どんな相手もねじ伏せることができるだけの圧倒的な暴力。

 なるほど、これはウィドウが一度も勝てなかったというのも頷ける。


 剣術の師範代だというのに、やっていることはカタログスペックの押しつけだ。

 ただの力任せではないというのも質が悪い。


 一つ一つ繰り出してくる攻撃には確かに大神流の術理があるため、下手に反撃ができないのだ。

 隙に見せかけているそれは意図的に生み出しているものであり、食いつけば即座に手痛い反撃が待っている。

 ウィドウと戦って大神流の技を何度も受けていなければ、なすすべもなく攻撃をもらい続けていただろう。


 大剣の一撃は、斬るというより叩きつけると表現するのがふさわしい。

 持っている直剣ごと衝撃とダメージを伝えてくるダツラさんの攻撃が、俺の体力をじわじわと削っていく。


 俺は相手の呼吸をしっかりと読みながら、反撃に転じるタイミングを待ち続けていた。

 振り下ろしから振り上げへと切り替える瞬間に生じる、わずかな、一秒にも満たぬだけの隙間。

 そこへ狙い澄ました一撃を放つ。


「――シイッ!!」


 当然ながらダツラさんはこちらに反応し、大剣を盾として使いながら攻撃に備えようとする。大剣は腹を使えば、そのまま即席の盾として使うこともできる。

 身体強化の出力差を考えれば、この状況でもダツラさんに軍配が上がるはずだが……


「……っつぅっ!?」


 俺の一撃は、ダツラさんを押し返してみせた。

 攻守が入れ替わり、今度は俺の攻撃へ映る。


 ダメージ量を無視した、とにかく手数を重視した一撃。

 相手の防御の穴にねじ込むように放ち続ける連撃に、ダツラさんの顔に初めて焦りが浮かぶ。

 俺の剣はこの瞬間確かに彼に届き、その全身に薄く刀傷を作ってみせた。


(硬い……金属塊でも叩いてるみたいだ! なんで攻撃してるこっちの手がしびれてくるんだよ!)


 俺がこうして一方的に攻撃を繰り返すことができているのには、当然タネがある。

 以前ミスリルランク冒険者のムルベリーさんが使っていた、身体強化を身体の一部に集中させる技術――部位強化を使っているのだ。

 おかげで足の速度が大して必要がないこの状況であれば、俺は優位な剣速で攻撃を続けることができる。


 呼吸が乱れこのままでは部位強化が続かなくなると感じるまでの間攻撃を叩き込んでから、大きく後ろに下がる。


「はあっ、はあっ……」


「なるほど……部位強化を使いこなすか。魔力操作に関しては天稟があるのだろうな……だがしかし」


 くわっと目を見開くダツラさん。

 全身には小さな切り傷がいくつもついているが、まったく効いている様子はなさそうだった。


「その剣技は、あまりにも未熟に過ぎる! いくら魔力操作が巧みであろうが、その程度の剣ではこのダツラを倒すことなどできぬわ!」


 再び剣を正眼に構えるダツラさん。

 俺はそんな彼に対し……持っているバスタードソードを投げることで答えとした。


「剣技での勝負では、俺の負けです。最後に一矢報いはしましたが……これではまったく自慢もできやしない」


「貴様、何を……勝負を捨てたかッ!?」


「いえ、違います。俺とダツラさんがしているのはどっちが強いかを決める勝負ですからね……ここからは俺も、本気でいかせてもらいます」


 『収納袋』から十色の指輪を装着し、賢者の杖を右手に構える。

 そしてそのまま星魔法のドラフティングを発動させ……空を飛びながら、不敵に笑った。


「俺の魔術師としての本気を、お見せしましょう」


「――面白いッ! かかってこい、小僧!」







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