第79話
食事の最中『戦乙女』の食卓は戦場と化す。
今日の昼飯は、肉とご飯を一緒に炒めた肉飯だ。
香辛料を使っているので、スパイシーな感じの肉々しいチャーハンと思ってくれて間違いはない。
一応キャメロン王国にも米はあるが、こんな風に炒めるのに適したインディカ米っぽい品種しか存在していない。
時折ジャポニカ米を持ってきて振る舞ったりしているが、あまり評判は良くない。
なんとかしてこのうるち米の良さを知ってもらうべく、最初のうちは日本食を振る舞うようにしているが、評価はあまりよろしくなかったので早々にやめていた。
やはり食文化の違いはいかんともしがたいね。
「おかわり!」
「はいよっ!」
中でも特によく食べるのは、ライザとウィドウだ。
二人は何度もおかわりをするほどによく食べる。
ウィドウは家の道場の時の癖なのか、食事時の時だけは遠慮せずにとにかくよく食べる。
おかわりをよそったり再加熱したりするのは俺とエルザの役目で、エルザはここ最近ポンコツなので主に俺の役目になっていた。
料理を作ってもらってるので、俺としてもまったく文句はない。
「……(もぐもぐ)」
「お肉が柔らかいわね……(もぐもぐ)」
ちなみにライザとウィドウが健啖すぎるだけで、別にアイリス達の食事量が少ないわけではない。
ルル、エルザ、アイリスの三人も一般的な女の子と比べれば量は食べている。
彼女たちが大盛り無料のラーメン屋に行けば、間違いなく大盛りを頼むことだろう。
ちなみに俺の食べる量は大体アイリス以上エルザ未満といったところだ。
ここ最近代謝が落ちてきているせいかすぐ肉がつくので、運動量やお酒の量と相談しながら食べる量を決めている。
こんなことを考えなくちゃいけないのだから、年は取りたくないものである。
「もう一杯食べるか?」
「う、うん、お願いしてもいいかな?」
少し恥ずかしそうにはにかむウィドウに、肉チャーハンをよそってやる。
彼女に釣られて俺も笑顔になってしまった。
「タイラーはたくさん食べる女の子は、イヤだったりする?」
「うんにゃ、全然。俺、よく食べる女の子は好きだぜ」
「そ、そっか……」
「タイラーおかわり!」
何か言いたげだったウィドウにカットインしてくる勢いでアイリスが空になったお皿を見せつけてくる。
ご飯をよそってあげると、彼女はちょっと苦しそうにしながらも、ニコッと笑いながら頷いていた。
「私だって食べれるもんっ!」
……どうしよう、ちょっとだけかわいいと思ってしまった。
俺が一人だったら『もんって、もんって!』と足をばたつかせながら悶絶していたかもしれない。
「むむむ……私も負けないよ!」
なぜかそれに対抗意識を燃やしたウィドウが再度おかわりを頼み、それに触発されたライザも再び肉飯を食べ始める。
それはもはや、食べるというより食らいつくという表現の方がふさわしいように思える。
さながらフードファイトの様相を呈してきた昼食を眺め、そういえば大食いって最近テレビでやってないよなぁとどうでもいいことを思い出しながら、ご飯よそい人に徹する。
おかわりに次ぐおかわり、当然最初に脱落するのはちょっと人より食べられる程度のアイリスだった。
結果としてライザとウィドウが満腹になる前に、肉飯が切れる方が早かった。
二人ともちょっと物足りなさそうだったが、食事としてはこれくらいがちょうどいいだろう。
飯を終えたら、再びウィドウと鍛錬を再開することになった。
一体どういう身体の構造をしているのか、食事を終えた時はパンパンに膨らんでいたはずのお腹は軽く運動をしているうちにあっという間に凹み、身体のキレの方はまったく変わっていなかった……というかむしろ食事前より上がっていた。
おかげで十回やった模擬戦は三勝七敗で、また黒星が多くなってしまった。
相も変わらず、女の子というのは摩訶不思議な生き物である……。
「ふぅ……」
ただ一つ、気になったことがある。
食事を終えてからというもの、ウィドウが戦いの合間に妙にアンニュイな表情を見せるようになっていたのだ。
戦いの最中は身が入っているんだけど、休憩の間は妙に心ここにあらずというか……ここではないどこかに意識を向けているような感じがするのである。
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