第76話
我が家――前世の俺が使っていた屋敷は、イラの街から少し離れた場所にある。
既に街がなくなってしまっている地域の、廃墟を進んでいった先にある森の奥深くに存在している。
周りには魔物が住んでおり、生息している魔物達の中には金ランクのものもゴロゴロしている。
屋敷の周りに大量に魔物がいるという状況はあまりよろしくはないので、運動がてら間引いていくことにする。
ウィドウとの鍛錬を明日に控えているため、今回は魔法禁止縛りで、身体強化だけで魔物を倒していく。
出てくる魔物達は、なまらないよう運動するにはちょうど良い。
小山ぐらいのサイズのあるヒュージグレイトボアーに、大量のゴブリンを引き連れたゴブリンキング。
ほどよく戦い甲斐があるのがありがたい。
「GYAAAAAAA!!?」
ヒュージグレイトボアーの前足の腱を切断し、前のめりになったところに切り下ろし。
そのまま頭を切り伏せると、ずずぅんと地響きを立ててヒュージグレイトボアーが地面に倒れる。
討伐も何度もやっているのでもう慣れたものだ。
今日のご飯はぼたん鍋にでもするかな。
「しっかり……やっぱりどうもしっくりこんなぁ」
今俺が使っているのは、屋敷にあった中でも比較的マシだった魔道具の剣だ。
メインで使っていた『魔導剣シャリオ』は迷宮のダンジョンボスだったマディとの戦いの末に完全におしゃかになってしまっている。
一応破片は可能な限り回収はしたんだが、星魔法のメテオの威力が高すぎるので剣の芯から何から完全に壊れてしまっている。
あの剣が良すぎたせいで、代わりの剣を使っても妙に違和感を感じてしまうのだ。
このまま使っていれば慣れるだろうか……このあたりも、明日ウィドウにでも聞いてみるかな。
「んごっ!!」
「ギャアアアッッ!」
剣の慣れない使い心地に違和感を覚えていると、遠くから顔がぺしゃんこになったゴブリンソルジャーが吹っ飛んでくる。
ぴくぴくと動いて一応まだ息があったので、首を掻ききって殺しておいた。
「んご、んごごっ!!」
ゴブリンソルジャーが飛んできた方向を見ると、そこには単身でゴブリンの群れに突っ込み無双しているちっちゃなゴーレムの姿があった。
マディの迷宮の核を使って俺が作ったゴーレムのミニゴである。
マディとの戦いの末に生き残ったミニゴ。
俺としては別に核を壊してしまっても良かったんだが、『それを壊すなんてとんでもない!』という『戦乙女』の皆の主張により、ミニゴは俺の屋敷で他の警備用ゴーレムと同じように管理している。
ちなみに素材が余っていたため、壊れていた腕ごと全身をミスリルに換装している。
なので今のミニゴはミスリルゴーレムってことになるな。
本来ならミスリルゴーレムはミスリルランクの獲物だが、ミニゴは身体が小さいので、強さは金とミスリルの間くらいだろうか。
どうやら俺が本来のものから回路を弄ったせいで知能が高くなってしまったらしく、ミニゴは好奇心が旺盛で、こうして屋敷に来るといくら危険な場所だと言っても俺の後をついてこようとする。
安全弁や魔力の逆流を想定した余白のところにまで魔力を流し込んだのがいけなかったのか、他の個体と比べると妙に反応も人間っぽいんだよな。
最近は俺が居ない時もタブレットを開いて、動画を見ていたりするし。
今度身体を分解して、中身を確認してみた方がいいかもしれない。
「んごっ!!」
跳び蹴りや右フックでゴブリン達を一蹴しているミニゴ。
その無双っぷりにビビったゴブリン達が、ミニゴから離れるような形で半円状になっていく。
その時、後ろからゴブリン達を叱咤するような叫び声が聞こえてきた。
かと思うとそのゴブリンの波が突如として二つに割れ始める。
ゴブリン達をかき分けてやってきたのは、この集団の親玉であるゴブリンの王、ゴブリンキングだ。
身長二メートルを優に超えるゴリマッチョで、背には両手持ちの巨大な斧を背負っている。
ゴブリンキングは統率する個体数や寿命によってランクが変わる。
俺のざっとした見立てでは金ランク以上、ミスリルランク未満といったところ。
相手にとって不足なし、両者の実力は恐らく同程度だ。
「「……」」
ミニゴとゴブリンキングが、向かい合う。
ここは邪魔をせず、ミニゴの戦いを邪魔しないよう、俺は周囲にいるゴブリン達を処理していくことにした。
「ごごごごごおっ!」
「グギャギャッ!」
しばしの沈黙の後、両者が激突する。
ゴブリンキングが縦横無尽に斧を振るい、ミニゴがそれを上回る機敏さでしっかりとよけていく。
斧はどうやらミスリルメッキがされている業物らしい。
それがあれだけの速度で放たれれば、一撃をもらえばミニゴの方もただではすまないだろう。
ゴブリンキングの動きはその巨体から考えるとかなり早いが、それでも全身をミスリルに変えたミニゴの方が圧倒的に早い。
ただしその分、ミニゴの一撃は軽い。
ミニゴは斧のラッシュをかいくぐりながらゴブリンキングへしっかりと攻撃を加えていくが、ゴブリンキングに効いている様子はなかった。
このままではマズいと判断したらしいミニゴが、動きを変え始める。
大雑把に当てていたボディブローをより精密に放ち、攻撃を当てる箇所をレバーに集中させ始めたのだ。
ミニゴは俺が時間を潰すために持ってきているタブレットで、俺と一緒にアクション映画や格闘技の試合を見ている。
どうやらそこから学んだ戦法らしい。
他のゴーレムと比べると知能が高いため、こんな風に応用の利いた戦い方ができるのがミニゴの強みである。
「んごんごんごんごおっ!!」
「グ……グギギッ!」
最初のうちは平気な顔をしていたゴブリンキングだったが、何度も何度もレバーに一撃をもらい続けるうちにそのダメージが蓄積されていく。
俺が周囲のゴブリンを倒しきった時には、ゴブリンキングの方が限界を迎えていた。
「グガッ……」
「んごおおおおっ!!」
体勢を崩したゴブリンキングの顎下に、ミニゴの強烈なアッパーが放たれる。
完璧に入った一撃は、見事ゴブリンキングの意識を刈り取った。
「んごっ!」
ストンピングしてきっちりととどめをさしたミニゴが、こちらを見ながら両手を大きくあげる。
どうやらガッツポーズのつもりらしい。
俺はちょっと笑ってからミニゴと同じジェスチャーをしてやり、その健闘を称えてやるのだった。
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