第71話
早速俺達は予定を合わせ、ギロンに向かうことにした。
ただ街を行き来するのにもある程度金はかかる。
幸い道中受けられそうな依頼があったので、臨時でパーティーを組んで一緒に向かうことにした。
「えぇ、それではよろしくお願いしますね、えぇ」
今回俺達が受けたのは、イラとギロンの街を往復する商人のマッチャーさんの護衛依頼だ。 マッガスが何度か仕事をしたことがある人らしく、受注までの流れも驚くほどにスムーズだった。
金ランクが受ける依頼として額としては少々物足りないらしいが、オーク狩りより高いので、俺からするとまったく文句はない。
この世界では商人の引く荷馬車の速度は、さほど速くない。
安全係数とか効率なんてものをあまり考えない商人は、馬がへばるかへばらないかというギリギリのラインまで荷物を載せる。
俺達が護衛している馬車も、夜逃げ前かよとツッコミを入れたくなるくらい大量に荷を積んでいる。
「ひ、ひひぃん……」
御者も務めているマッチャーさんに鞭で叩かれている馬は、既に悲壮感を漂わせていた。
この馬が現代日本人だったら、間違いなく労基に駆け込んでいることだろう。
とまあ、そんなにゆっくりと進んでいくんだからぶっちゃけ護衛としては結構暇な部類に入るわけだ。
ギロンに続く道は基本的に一本道で見晴らしもいいし、異変があればすぐにわかるから、割が良い美味しい依頼なんだと。
「しっかしなんというか……むさ苦しいな」
「仕方ねぇだろうタイラー、俺達だって好きでやってるわけじゃねぇんだ」
最近『戦乙女』とばかり行動を共にしていたので、ここまで男臭い空間にいるのも久しぶりだ。
そう告げると隣に居るマッガスが、大斧を持ちながら遠い目をし始める。
彼らだって、好きで男臭いパーティーを組んでいるわけじゃないようだ。
ただ結果として気が合って実力が同じくらいの奴らが全員男だっただけらしい。
なんて悲しい偶然だろうか……。
「しっかし、まさかタイラーも身体強化が使えるようになってるとはな」
「ウィドウから教わったらできたんだよ」
俺は魔術師なので馬車の中で体力を温存してもいいと言われてはいたが、身体強化の練習も兼ねてマッガス達と一緒に外で警戒役をしている。
休憩時間に軽く手合わせをしたりもしたんだが、身体強化だけでも金ランクくらいの近接戦闘能力はあるとお墨付きをもらうことができた。
「かあっ、女自慢ですか! ぺっぺっ!」
そう言って道ばたに唾を吐きまくっているのは、刀使いのオルゴスだ。
こいつはさほどガタイは良くない細マッチョなんだが、顔はめちゃくちゃゴリラみたいなので優男感はまったくない。
小さい女の子に道を聞いたら、ギャン泣きされて衛兵を呼ばれそうなくらいの強面をしている。
しかもオルゴスはこういう感じですぐに熱くなるタイプで、弱いのにギャンブルが趣味だったりする。
あまりの負けっぷりに、こいつの隣にいるだけで勝てるというジンクスができるくらいには負けているようだ。
「へへっ! 俺にはマーサさんがいるから高みの見物といこうかな」
「お前……娼婦に入れあげてる時点で俺より下だろ……」
「ば、馬鹿野郎! マーサさんは俺に本気だって言ってくれたんだ! 殺すぞオルゴス!」
オルゴスにメンチを切りながら背中の大剣に手をかけたのは、大剣使いのシビャクだ。
こいつは恋愛経験がなさすぎて、すぐに商売女に本気になる。
娼婦や居酒屋の店員などに金を落としては、偽りの愛に溺れている男だ。
俺からすると、博打好きも娼婦狂いもどっちもどんぐりの背比べだと思うがな。
ちなみにこんなんでも、こいつらの冒険者としての腕は確かだ。
鳥型の魔物や飛竜なんかと戦える遠距離攻撃可能なメンバーを入れれば、そう遠くないうちにミスリルランクくらいには上がれるだろう。
しっかし、この二人を見た後だとマッガスがすごくまともに見えてくるな。
マッガスは少々金にだらしないきらいはあるが、基本的には真面目だし。
とまあ、この三人が『男の浪漫』のメンバーだ。
……え?
こんなパーティーに女が入るわけがないって?
ぶっちゃけ俺もそう思う。
ただ、聞くだけならタダだし?
万が一ってやつは万に一つはあるわけだしね?
と軽い気持ちでミミを尋ねていったところ……。
「ええ、いいですよ」
「「「「え……えええええええええっっ!?」」」」
俺達男四人の声が、ギルドの中にこだまする。
受付嬢は迷惑そうな顔をしていて、ミミの方は変わらずニコニコと笑っていた。
こうして『男の浪漫』に、新たなメンバーとしてミミが仮加入することになったのだった。
万が一が起きるとは……たまげたなぁ。
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奇天烈令嬢、追放される ~変な魔道具しか作れないせいで婚約破棄されたので、隣国で気ままに暮らしていこうと思います~
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