第69話


 ロックオーガの戦闘の方は、俺が援護していたこともあって無事に上手いこと進んでいた。

 片方のロックオーガは両目を潰されてしゃにむに手に持っている棍棒を振り回しているだけだし、もう片方もロックが突き刺した短剣が上手いこと筋を切ってくれたらしく機動力が大きく削がれている。


 疲れが残っているとはいえ、あれならあいつらだけでもなんとかなるだろう。


「ミミ、削って倒しきれ! ハリネズミにするくらいでちょうどいいからな!」


「了解です!」


 いざとなれば回復魔法で治すこともできるし、あの三人なら下手に功を焦って無茶をすることもないだろう。


 というわけで俺は未だ戦っているムルベリーさんの応援に向かうべく、戦場を移動することにした。






「くっ……」


「GRAAAAA!!」


 彼女は恐らく、スピード特化のフェンサーなのだろう。

 嵐のように荒れ狂う剣閃がオーガジェネラルに襲いかかってはいく。

 一撃一撃の威力はそこまで高くはない。


 だが何より――速い。

 まるで剣を持つ手が増えたかのように多くの角度から繰り出される斬撃が、オーガジェネラルの肌を裂き、その先にある筋肉をブチリと断っていくのが見えた。


(どれだけ身体強化を極めればあそこの領域までいけるのか……純粋な速度ならウィドウより速いな)


 魔法も使いながら誤魔化して戦っている俺と比べると文字通りに馬力が違う。

 目にもとまらぬ速度で繰り出されるムルベリーさんの斬撃。


 少なくともまともにやり合いたくはないな……間違いなくオーガジェネラルと同じく一方的にボコられるだろう。


「――チッ!」


「GUOOOOO!」


 ムルベリーさんは傷一つついておらず、オーガジェネラルの方は満身創痍。

 けれど顔に焦りが出ているのは、ムルベリーさんの方だった。


 オーガジェネラルの方は余裕の表情すら見せながら、ムルベリーさんの攻撃を捌いている。

 ミスリルランクであるオーガジェネラルの体力は相当なものだ。

 それを削りきるだけの火力がムルベリーさんにはない、と考えるのが妥当だろう。


 魔物の肉体は魔力との親和性が高く、魔法を使わずとも魔法的な効果を発揮させることができる。

 その証拠にオーガジェネラルについている傷は、既にゆっくりとではあるが塞がり始めていた。


 オーガジェネラルの方は持ち前のタフネスを利用しながら、回復をしつつ致命傷を受けるのを避けながら防御に徹している。


 隙あらばカウンターを食らわせようとしているのは明らかで、自分に不利な膠着状態に陥りつつあるムルベリーさんの眉間にしわが寄る。


(だがどんな凶悪な化け物であっても、決して無敵じゃない)


 最悪の場合は助けに入ることができるよう、俺は結界魔法を使う準備に入る。

 取り出した指輪を三つほどつけ、魔法発動の補助とする。


 いざとなれば割り込む必要はあるだろうが……多分だがその必要はなさそうだ。


 俺が冷静に戦局を判断しようと観察していると、先に動いたのはオーガジェネラルの方だった。

 ムルベリーさんが放った連閃の間の一瞬の間。

 長いこと続いていた攻勢のため粗くなっていた呼吸を整えるためのわずかな隙を見たオーガジェネラルが、にたりと笑う。


「OOOOOOOOO!!」


 そこに強引にねじ込むような形で、手に持っている鋼鉄の棍を思い切り振り下ろした。

 人外の膂力で放たれる一撃は、鋼鉄製の柄を折れんばかりにしならせながら放たれた。


 そしてムルベリーさんは……その一撃を、左の腕で受ける。

 彼女はそのままニィッ……と凄絶な笑みを浮かべた。


 ボキッと鳴る嫌な音、彼女の左手の骨が折れた音だ。

 彼女はそのまま、右手に持った剣を振る。

 ――そう、ムルベリーさんは己の左腕を犠牲にして、相手の隙をつきにいったのだ。


(なるほど……魔力で部分的に身体を強化したのか)


 恐らく左手と右手だけに魔力を集中させたのだろう。

 本来であればぐしゃぐしゃになっているはずの左手は折れただけで原型を留めており、右腕の勢いは先ほどまでの連撃を上回るほどの神速の一撃であった。


 カウンターをカウンターで返されているとは思っていなかったのだろう。

 警戒をしていなかったオーガジェネラルは、ムルベリーさんの突きをもろに食らう。


 突きの先は――右の眼球だった。

 勢いよく突き込むと更に剣を捻り、その先に繋がっている視神経と脳を傷つけていく。


 そう、どれだけ強力な魔物であってもそれが生物の形を取っている限り、体内にある臓器……特に命に直結する心臓や脳といった弱点がある。


 それを壊してしまえば、倒せるということだ。


「……ちっ、腕のいい回復魔術師を雇うのは高いんだがな」


 そう言って右の手で剣を引き抜くムルベリーさんを見て、受験生の三人が大きな歓声を上げる。

 森の中でなんて不用意な……とも思わなくもないが、その気持ちはわかる。


 ただとりあえずこの状態でロックオーガに遭遇したら流石にマズそうだ。

 もしそうなったら……流石に力を使わせてもらうことにしよう。


 だが現実というのは面白いもので。

 そんな風に俺が決意した途端、森から一切魔物の気配がなくなった。


 そして俺達はなんの問題もなくギロンの街へ戻り……そして添え木で腕を固定したムルベリーさんの号令の下、無事昇格試験の終了を告げられるのだった――。





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