第62話


 二つに裂かれたマディの胸から出てきたのは、虹色に光る宝玉だった。

 そこに見えたのは間違いなく、俺の『賢者の杖』にもついている万能の石――『賢者の石』だった。


 しかもあれは間違いなく、メルレイア師匠が作り出したものだ。

 その魔力の波長や石に浮かぶ波紋を見れば、一目でわかる。

 俺が間違えるはずがない。


「俺は、ダンジョンコアを食べテ、ボスを超えるボスになっタだけだっ!!」


 胸にある『賢者の石』が輝いたかと思うと、マディの身体の断裂が一瞬のうちに修復されていく。

 そして腕から先は先ほどより美しい、白く高貴な輝きを宿すようになる。

 あれは……ミスリルか?

 となるとこれで、得物のグレードは同じになったわけだ。


 しかし近接攻撃だとなかなかダメージが通らない。

 魔法だとどうなるかを考えるためにも、一度『賢者の杖』を使っておくか。


 俺は『魔導剣シャリオ』をしまいこみ、『賢者の杖』を取り出して即座に魔法を発動させる。


「フレイムランスアプラスウィンドショット――バーストランス」


 炎の槍と風の弾丸を組み合わせ、内側に風の暴威を込めた爆発の槍を生み出し、魔力の力で投擲する。

 着弾、同時に爆発。


 あちら側の動きは見えないが、これだけで倒しきれるとは俺も思っていない。

 今はただ少し、考える時間がほしかっただけだ。


(なるほど、ダンジョンという巨大な魔道具を動かし続ける動力源はずっと疑問だったんだが……ダンジョンコアが『賢者の石』だというんなら納得がいく)


 魔力の根源を司ると言われている『賢者の石』は、作成に成功した師匠ですらその全貌が掴めていなかった謎多きアイテムだ。

 だがその内側にはとんでもない量の魔力が内包されており、更に周囲の魔力を取り込むこともできるため、やろうと思えば魔力含有量は際限なく増えていく。


(『賢者の石』を使いダンジョンの周囲の空間から魔力を取り込み続け、それを使って魔物や宝箱を生産する……となるとさしづめ、魔物牧場や武器生産工場ってところか?)


 そのダンジョンのエネルギー源であるダンジョンコアを、あの魔物は食べたのだという。 それだけ大量の魔力があるのなら、なるほどあれだけ無駄な魔力の使い方をしているのも頷ける。

 ああやってバカバカ使わないと、魔力に耐えきれずに身体が崩壊するだろうしな。


「グ……なんで、俺ガ……俺ガアアアアアアッッ!!」


 煙の向こう側から、ボロボロになったマディが現れる。

 わずかに露わになった『賢者の石』が輝き、その身体を急速に修復しているのがわかった。

 マディが己の頭を掻き抱くように、両腕を上げる。

 すると一瞬のうちに土がたわみ、隆起する。

 地面から生み出された山のような針はマディの周囲に展開されていき、俺は結界魔法を使ってその攻撃を防いだ。


(魔法の威力も上がってるな……)


 先ほどの自分の手をドリルになった一撃は簡単に防ぐことができたし、結界を貫通するまでには時間がかかっていたが、今放ってきた土の針の魔法は既に俺の障壁を既に何本か貫通している。


 頬を撫でると、顔の横に飛んできた針が軽く皮膚を破っていた。

 赤い線を指先でなぞりながら、俺に傷つけられて悦に浸っている様子のマディを観察する。

 先ほど足を断ち割った時と比べても、修復の速度が上がっているように思える。

 今では既に先ほどの魔法のものどころか、最初にウィドウやミニゴにつけられた全ての傷も完治しており、マディは万全な状態に戻っていた。


 明らかに戦闘初期と比べても強くなっている。

 理解していなかった『賢者の石』の使い方を、実戦の中で身に付けているってところか……?


 無限の回復力を持つくせに戦う度に強くなるというサイヤ人特性まである。

 おまけに『賢者の石』は俺の手持ちの魔法だと壊すことはほぼ困難と来た。

 正攻法で戦うのは難しいな……と考えたところで、周囲の状況を確認する。


 俺がマディのことを剣で吹っ飛ばしまくっていたので、既に『戦乙女』達の姿は見えなくなっている。

 けれど耳を澄ませれば、金属音が聞こえてくる。どうやら未だ戦闘は継続中のようだ。


 何か突破口はないか……戦いの中に糸口を探すために、とにかく魔法を放ち続ける。

 けれど魔法を使っても、すぐに回復されてしまうだけだった。


 幸い、マディ自体の戦闘能力はさほど高くはない。

 となるとやはり『賢者の石』をなんとかする必要があるだろう。


 より接近して機を窺うために、敢えて再びの魔法剣士スタイルを取らせてもらう。

 死中の中にしか、活を見出すことはできない。

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