第61話


 魔法陣から現れたのは、合わせて五体ものアイアンゴーレムだ。

 五体とも新たに生み出されたからかその全身はピカピカで、どこから降り注いでいるのかわからない陽光を、キラリと反射している。

 第二階層で相手をしていたアイアンゴーレムよりも二回りほどサイズが大きい。 

 ミニゴに対抗して作ったってことなんだろうか。


「にしても……ゴーレムをあんなにすぐに作れるのか……」


 それに今……口からゴーレムの核を吐いたよな?


 こいつは自分のことをボスモンスターと言っていた。

 とするとこいつは第四階層のボスモンスターで、ゴーレムを生み出す能力を持っていると考えるのが妥当な線だろ。


 体内にいくつもの核を仕込んでいると考えると、今後追加でゴーレムを出される可能性もある。

 となると、さっさと決着をつけた方が良さそうだな。


「この俺……マディ様のゴーレムの方が強イ!」


 そう言うと五体全てのアイアンゴーレムは、俺と『戦乙女』を無視してミニゴの方へと駆けていく。


 どうやらこの土男は、マディという名前らしい。どうでもいい新情報だな。

 にしても、こいつのミニゴへの異常な執着はなんなんだろうか……まあ俺らとしては標的がミニゴに集中するから助かるんだが。


 俺は今のうちにとエルザに耳打ちをしておくことにした。


「あの土男――マディは俺がやる。エルザ達はミニゴを守りながら上手いことゴーレムを処理し続けてくれ」


「……わかったわ。でもさっさと片付けたら、私達も加勢させてもらうから!」


 俺は頷いてから、星属性魔法のドラフティングを発動させる。

 そして空に浮かびながら、周囲の様子を見渡していく。


 ちなみに高度を上げてもテレポートは使えるようにならない。

 知らなかったのか、ラスボスからは逃げられない……ってところだろうか。


 確認するが、他に敵影はなし。

 扉はおろか階段も見当たらない。


 もしかするとここが、最下層なのかもしれない。

 だとしたらあのマディがこのダンジョンのラスボスということになるんだろうか。

 ……いいじゃないか、年甲斐もなく燃えてきたぞ。


「ウィンドバーストプラスタイダルウェイブプラスガイアストラッシュ――グラウンド・ゼロ」


 風・水・土の複合魔法であるグラウンドゼロを上空から放つ。

 暴風を伴う濁流が、こちらを見上げるマディへと激突する。


 俺は魔法の影に隠れる形で、土男へ一息に接近することにした。

 少なくともこいつの意識は、完全に俺に釘付けにしておく必要がある。


 魔法剣士としてどこまでやれるか……少し、試してみるか。


「シッ!」


 両手で大剣である『魔導剣シャリオ』を構えるため、『賢者の杖』をしまった。

 火力は『賢者の杖』プラス指輪の純魔法装備の方が出るんだが、今はオールレンジで戦えるこちらの魔法剣士型の装備の方が向いてるだろう。


 全身を循環する魔力を高速で回しながら、剣を振りかぶる。

 唸りを上げながら振り下ろされた大剣が、未だ頭上に意識を向けているマディの足を片足だけ断ち切った。


「ちっ、硬いな」


「――っ!?」


 どうやら身に纏っている鎧はかなり硬いようで、右足は抜けたが一撃が左足の鎧を裁ちきれずに止まってしまう。


 けれどさっきミニゴの一撃で腕を飛ばすことはできていた。

 なので硬いのは鎧だけで、内側の肉体の強度はそこまでないのだろう。

 となると、鎧の継ぎ目を狙う戦法が有効そうだな。


「こざかしい真似ヲ――」


 右足を断ち斬られ、マディの体勢が崩れる。

 けれど空間を埋めるように即座に土が生み出され、重心がすぐに元に戻った。


 相変わらずダメージを受けている様子はない。

 まずは核の位置を探す必要がありそうだな。


「卑怯者メ!」


「どっちがだよ」


 柄を浅いところに持ち替え、更に出力を上げていく。

 シャリオで鎧の継ぎ目を狙うのは難しい。

 ここは魔法と剣の併用でいかせてもらおう。


 剣を構え、突撃する。


 土男は俺に合わせてか手の形を剣に変えていた。

 気付けば両腕の肘から先が、剣の刃先になっている。


 迷宮産ゴーレムと同じく素材の選別ができるからか、剣は黒く鈍い光を放っている。

 シャリオをぶつけると、あっさりと腕の剣は断ち斬ることができた。

 得物では、大分こちらに分があるようだ


「ナんダ、その剣は!」


「――シッ!」


 俺は問いに答えることもなく、そのまま連撃に移る。

 柄を持ち替えた分威力は落ちるが、その分手数で勝負だ。


 右からの攻撃を左に流し、そのまま一撃。

 上からの振り下ろしをピタリと制動させ、そのままV字に斬り上げる。


 当たる攻撃もあれば外れる攻撃もある。

 だがなんとなく相手の呼吸と戦い方が見えてくる。


 持っているのが大剣の分、スピードではあちらに若干分がある。

 身体強化がもう少し上手く使えるようになってれば、魔法なしでも良い勝負ができてただろう。

 俺もまだまだ鍛錬が足りないな。


「――食らエっ!」


 マディが即座に再生された腕の剣で、攻撃直後のこちらの脇を狙いに定める。


 ――残念だったな、こちとら魔法剣士なんでね。


「ファイアボム」


「グアアアアッッ!!」


 こちらに一撃を当てられることを確信していたからか、やや無防備だった上半身目掛けて炎の爆弾を爆発させる。

 その爆風で遠くへ吹っ飛ばした瞬間、ドラフティングを使って背後へと先回りする。


「そお、れっ!」


 大きく後ろに反り返りながら勢いをつけ、斬撃を叩きつける。

 よしっ、今度は良いのが入ったぞ。


 内心でガッツポーズをしながら、後ろ側から思い切り叩き斬られたマディの身体を見つめる。

 今回の一撃は鎧を完全に断ち切り、内側までしっかりと刃を通していた。

 流石に真っ二つにすることはできなかったが、ダメージが入ったからか苦悶の声をあげている。


 しかし……これでもまだ死なないか。


 攻撃の手は緩めずそのまま連撃の姿勢に入る。


 一度深呼吸をして、視力を強化。

 マディの鎧の継ぎ目と身体の動きを、何一つ見逃さぬように意識を集中させる。


 剣を振ると、純粋な速度ではあちらに分がある。

 故に俺の剣届くより、相手の剣がこちらへと当たる方が早い。

 だからこそ魔法を使って、その隙を補っていく。


「ファイアアロー」


「あぎっ!」


「ウォータージェットカッター」


「うぐっ!?」


「アースランス」


 俺には無詠唱魔法は使えない。

 だが詠唱破棄を使った魔法の速度は、マディの出せる速度を優に超えている。


 中級魔法を連打し続けながら、とにかく振りと振りの間に生まれる隙を埋めていく。

 そして逆に相手の隙を作ってやり――


「そこにデカい一撃を、ぶち込んでやればいいっ!」


 今度は真正面から、マディの頭部を叩き潰すような一撃を放つ。

 後ろからと前から二度の重たい斬撃を食らったことで、とうとうマディの身体が二つに裂けた。


 これで核でも見えればもうけもんだと、そんな風に思っていたんだが……。


 マディの身体の中心部――人間でいうところの心臓のあたりに見えたものを見て、俺は頭が真っ白になった。


 おい……どうしてお前が、それを――


「おいてめぇ」


「あがあっ!?」


 マディの身体を切り刻み、焼き焦がしながらも、俺は尋ねずにいられなかった。


「てめぇがなんでそれを――『賢者の石』を持ってる?」





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