第59話
俺達はライザとミニゴに罠を解除(後者の場合は物理的に)してもらいながら、マッピングを進めていく。
事前の予想では、この階層ではアイアンゴーレムよりも強い金ランクの魔物であるゴーレムが出るだろうという話はしていた。
魔法を使うマジックゴーレムか、より硬いミスリルゴーレム当たりを想定していたのだ。
だがそんな奴らは姿形もなく、第三階層はただのだだっ広い迷路になっている。
しっかし……迷宮の中に魔物がまったくいないなんてことが、ありえるのか?
「考えられる可能性を教えてくれ、エルザ」
「迷宮に魔物がいないパターンは私が知ってる限り二つあるわ。まず一つ目は、迷宮が完全に停止してしまった場合。迷宮は最奥にあるダンジョンコアと呼ばれる魔道具を壊すと、その機能が停止するようになっているの」
最奥にいるラスボスの魔物を倒すことができると、迷宮はその活動を止めるらしい。
それ以降迷宮では魔物がリポップすることはなくなり、迷宮はただのだだっ広い空間として使われるようになる。
空間拡張の機能そのものが消えるわけではないらしいので、世界にはかつて迷宮だった地下街なんてものも存在するようだ。
……ちょっと気になるな、後で時間を見て見に行きたくなるくらいに。
いかんいかん、話を戻そう。
現在の王国では、迷宮というのは神が人間に授けた試練ということになっている。
故にダンジョンコアを壊し迷宮としての活動を終わらせることに罰則はなく、むしろ奨励されているらしい。
資源として活用できる可能性があるが危険も孕んでいるため、迷宮を壊すかどうかの判断は領主によって異なるらしい。
「でも騎士団が中に入ってダンジョンコアを壊したのなら、私達に情報を伝えないはずがないわ。事前に腕利きが中に入って全てを終わらせてる可能性もゼロではないけど、位置取り的にオリハルコンランクの冒険者が来れるはずもないからこっちも無視できる」
「アイリスの言う通りよ。だから私は二つ目――ボスが、リポップする魔物を食べてる可能性が高いと思う……」
ボスの中には活動的な魔物も少なくない。
たとえば以前はボスであるワイバーンが迷宮内の魔物を食い荒らし、ボス以外にまったく魔物がいない階層なんてものもあったようだ。
ボスモンスターが魔物を食べる、か……。
だがここに出てくる魔物は、ゴーレムだよな?
だとするとゴーレムを食ってるってことになるが……いや、ないことはないか。
土属性のアースドラゴンあたりなら、ゴーレムの肉体を飲み込んでそこから魔力を抽出したりもできるだろうし。
そうなるとこの階層のボスは、危険極まりないやつってことになるな。
当初言っていた引くかどうかの判断をするタイミングは、思っていたより早く来そうだ。
「とりあえずまずは階段付近で調査を進めるのはどうかな? 第二階層まで引けば、ボスは追って来れないはずだし」
「それがいいでしょうね」
いざという時のために俺の魔力をなるべく温存しておこうということになり、とりあえずいつでも第二階層へ戻れるようにしながら、ゆっくりと調査を進めていくことになった。
そして数時間ほどあたりを回ってみた結果……やはり魔物は一匹たりとて見つけることがいなかった。
皆を一度屋敷に戻してから俺が単身で確認してみたところ、扉を開いた先に待ち受けているはずのボスさえいなかったのだ。
ボスを倒して進むタイプだったらしいが、扉を開いてもそこには魔物の一匹もおらず、ただ階段への道が一直線に続いているだけだった。
一体この迷宮で……何が起こってるんだ?
次の日、俺達は第四階層へ続く階段を下ることにした。
迷宮で異常が起きているのは間違いない。
なので一度地上まで戻って、この情報を伝えるべきじゃないのかという話も出たんだが……調査依頼を請け負った以上、異変の正体まで突き止めておかなければ依頼は達成されたことにならない。
まあそれに一応、転移魔法って裏技もあるしな。
なので危険は承知の上で、俺達は第四階層へ下りるという結論を出したのである。
「一気に景色が変わるんだな」
第四階層は、第一~第三からは想像もつかないような広原が広がっている。
見晴らしも良く障害物らしい障害物もないため、周囲の景色はよく見える。
「でもやっぱりここにも、魔物はいないわね……」
迷宮の魔物が階層間を行き来することはできない。
第三・第四と二つの階層にまたがって魔物が出てこないとなると、ボスというより迷宮そのものに原因があると考えた方が良さそうだな。
しっかしこの階層にも……ん、なんだ、この感覚……。
バツンッ!!
突如として、俺の中にある魔力が弾ける。
そして一気に倦怠感に似ただるさが、わずかに身体の動きを鈍らせた。
体内にある魔力が、なんらかの干渉を受けている。
魔法がまったく使えなくなったわけじゃないみたいだが……っておいおい、嘘だろ――。
「――テレポートが使えなくなった! 全員、戦闘態勢に入れ!」
俺の言葉に『戦乙女』が即座にフォーメーションを組む。
いつどこから襲撃があってもいいように周囲に目を光らせていると……俺達の目の前に、突如として小さな影が現れた――。
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