第58話
「これ、普通の冒険者だとしんどそうだな……」
第二階層に下りてみると、その基本構造は第一階層とさほど変わらなかった。
変わったのは魔物の種類と、罠の出現だ。
第一階層ではストーンゴーレム・サンドゴーレム・アースゴーレムがほぼほぼ均等に出現していた。
けれど第二階層では彼らは全て姿を消し、代わりにアイアンゴーレムがばんばか出てくるようになった。
今のところ、他の魔物が出てくる様子はない。
単独行動をしている個体は少なく、中にはアイアンゴーレムが三体で群れをなしていることもあった。
一体一体の強さはせいぜい銀ランク上位ではあるが、ここまで大量のアイアンゴーレムが出現するとなると話は別だ。
複数のアイアンゴーレムと戦うには金ランク程度の実力は必要だし、しかもアイアンゴーレムの数自体も決して少なくない。
この層を安定して探索するためには、『戦乙女』と同等のミスリルランクくらいの実力は必要なように思える。
そして変わったのはゴーレムだけじゃない。
第二階層になると罠も容赦なく出てくるようになった。
足下にあるスイッチを押したら毒矢が襲いかかってきたり、火炎放射が飛び出してきたり……ライザ曰く罠としては単純なものばかりのようだが、素人の俺では見分けるのも一苦労だ。
アイアンゴーレムと戦闘になってしまえば、罠を見つけながら戦うのは不可能に近い。
そんな中で俺らの探索に予想外に貢献してくれたのは、俺が作ったあのミニチュア魔導ゴーレムだった。
「んご~っ!」
ミニゴーレムの右ストレートが、アイアンゴーレムの胸部に突き立つ。
右ストレートでぶっ飛ばされたアイアンゴーレムは一撃で核を破壊され、その活動を停止させた。
「んごっ!」
どうやら俺が回路を弄ったせいでかなり強くなってしまったらしく。
本来なら第二階層のアイアンゴーレムより若干弱いくらいに調整されていたっぽいミニゴーレムは、匠の手(自画自賛)によってアイアンゴーレムを一撃でぶち飛ばせるくらいに強くなっていた。
身体が小さいおかげで小回りも利き、スピードも普通のゴーレムの倍近くはある。
そして全身が鉄でできたこいつは、当然ながら毒矢だろうが火炎放射だろうが痛くもかゆくもない。
なので遠くの、まだ罠の発見が見つかっていない場所にもとりあえず突貫させることができる。
こいつのおかげで俺達の探索はむしろ第一階層と比べても順調に進んでいるほどだった。
「なんだか私の常識がどんどん壊れていく気がするわ……」
「考えたら負けよ、エルザ」
「ていうかさ、ずっと見てたらなんだか愛着湧いてきちゃったな……ねぇタイラー、この子の名前とか決めないの?」
ウィドウにそう言われて、核を持ってこっちにやってくるミニゴーレムを見つめる。
つぶらなモノアイは最初は不気味だと思っていたが、たしかに見慣れたからかちょっとかわいく見えないこともない。
「名前、そうだな……あかりとか?」
「この子、女の子なの……?」
「いや、冗談だ」
俺はゴーレムに名前をつける必要はない派だ。
物に愛着が湧きすぎると、たいていの場合ろくなことにならない。
特にゴーレムなんて核さえあれば作れるんだから、使い潰すくらいの気持ちでいた方がいいんだ。
前にゴーレムをペット感覚でかわいがっていた時には、痛い目を見たからな……。
「ミニゴーレムだからミニゴとかでいいだろ」
「適当ね……まあ、いいんじゃない?」
というわけで名前がミニゴに決まり、そのままサクサクと探索を続けていく。
基本的に敵が一体だったらミニゴが片付け、二体以上なら俺達も戦う。
このスタイルが確立されたことによって、第一階層より体力を温存したまま探索を進めることができた。
どうやら広さも第一階層と比べると狭いようで、あっという間にマッピングも終わる。
第二階層はボスがいるけれど別に倒さなくても先に進めるタイプのようで、なんだか豪華な扉はあるもののそことはまったく別のところに下へ続く階段があった。
時刻を確認すると、まだ午後三時ほど。
道中あまり戦っていないこともあって、『戦乙女』のメンバー達もまだまだ元気が有り余っている。
「一度第三階層の魔物を確認したら、今日は終わりにしましょうか」
そう言うエルザに従って第三階層へと潜り……そして俺達は愕然とすることになる。
なんと第三階層には罠こそ大量に設置されていたものの……魔物の姿がまったく見えかったのだ――。
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