第57話



「え、別に売るから捨てるわけじゃないんだけど……?」


 普通に当惑しているエルザのことは一旦置いておきながら、ゴーレムの核をしげしげと眺める。


「これを使えば、多分ゴーレム作れるぞ。もし売るだけなら、俺が使ってみてもいいか?」


「あんた、本当にゴーレム作れるのね……」


「ただ、どんなゴーレムになるのかは、正直ちょっと想像がつかない」


「それは、なんだか怖いですね……」


 さっき現れた宝箱然り、このゴーレムの核然り、この迷宮内にあるものに彫り込まれている魔術回路は、俺が知っているものと結構違う。


 ところどころはわかるんだけど、全体像が掴めない感じ……初級者向けの単語帳だけを使って、難解な英語の長文を解いているような感覚に近いだろうか。


 なので恐らく普通のゴーレムができるんだろうな……ということくらいはわかるんだが、あまり詳細なところまではわからない。


「エルザさん、別にいいんじゃないですか? アイアンゴーレム程度なら、リポップしてもどうとでもなりますし」


「そうね、それじゃあやってもらおうかしら」


 渡してもらったゴーレムの核を上下左右から観察していく。

 多分ここが魔力を集束するところだろ、それにここが周囲の物質を集めるところ……ここはちょっとよくわからないな……。


 理解できるところとそうでないところが大体半分程度だが、見た限り明らかにおかしな魔力の流れであったり、魔力を溜め込んで爆発するような回路にはなっていなさそうだ。


 一応念のために皆には階段側に待避してもらいながら、恐らくここに魔力を流し込めばいいんだろうなという場所に手を置く。

 ん、でもこの魔力を注ぐ場所……ちょっと冗長すぎるな。


 もうちょい簡略化したら効率よく魔力が回るぞ……あとここ、リミッター外せばもうちょい魔力注げるだろ?

 安全性を確保するためにこっちの部分 はちょっと削って……。


 俺はミスリルのダガーを取り出し、ちょちょっと魔術回路を弄ってみる。


 とりあえず今できそうな部分の手直しを終えただけだが、さっきまでより明らかに魔力が淀む箇所がなくなっているのがわかった。


 自分の仕事に満足した俺は、リミッターを外して魔力量の制限を取っ払ったゴーレムの核に魔力を注ぎ込む。

 俺の頃はこんな安全機構なんてなかったから、大体どれくらいまでは暴発せずに魔力が入るかはなんとなく感覚でわかっている。


 ブルブルブルッ!!


 先ほどまで微動だにしていなかった核が、急に生き物のように震えだした。

 そのまま脈動し始めた核を地面に置くと、核が周囲の土を取り込みだす。


 その様子を見て驚いたのは、『戦乙女』の皆だけではなかった。

 正直俺の方も、驚きを隠せなかったなかったのだ。


 なんと宝箱から出てきた核は……周囲にある土から、素材をある程度選択して吸収を行っていたのである。


(なるほどな……こうやってアイアンゴーレムがリポップしているわけだ)


 この土のエリアでアイアンゴーレムが出てくることが不思議だったんだが、その理由はこの素材の取捨選択にあったわけだ。

 恐らく土の中にある鉄成分だけを選んで取り込むことができるから、このエリアでもアイアンゴーレムの生成が可能になっているんだろう。


 ということは、できるのはアイアンゴーレムになるわけか……?

 どんどんと鉄で覆われていく核を眺めていると、最終的にさっき戦っていたのより二回りほど小さなアイアンゴーレムができあがった。


 見たことないものを弄ったからちょっと不安だったが……どうやら問題なく動いてくれたようだ。


 サイズは大体、アイリスやルルよりも小さいくらいだ。

 デフォルメされたゴーレムみたいで、マスコットみたいな趣がある。


「んご~~っ!」


 グッと腕を折って力強さを見せつけてくる。

 どうやらやる気は十分のようだ。

 ……いや、多分設定された通りに動いてるだけなんだろうけど。


「ゴーレムの主人は俺でいいんだな?」


「んご」


「それじゃあ最初の命令だ。彼女達の権限を主人である俺と同じレベルまで引き上げるように」


「んごごっ!」


「……という感じだ。とりあえず言うことは聞くから、矢除けにするなり壁にするなりして使っていこう」


「わかったわ。わかってないけど、わかったわ」


「あ、エルザさん考えたら負けって顔してる……」


 こうして俺達パーティーは新たに魔導ゴーレムを加え、第二階層へと下りていくのだった。

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