第56話
アイアンゴーレム程度、別にタイラーの手を借りる必要もないわ。
そう言っていた通り、銀級程度の魔物では『戦乙女』の相手にはならないようだった。
「土の縛鎖、我が意に従い敵を拘束せよ、顕現せよ人造の蛇――アースバインド!」
アイアンゴーレムの周囲の土が隆起し、そこから土の鎖が整形されていく。
中級土魔法であるアースバインド、相手の動きを拘束するための魔法である。
流石に全身を絡め取るのは難しいと放ったからか、アースバインドはゴーレムの全身ではなく足を中心にしてその鎖を射出させた。
「グオオオオオッッ!?」
こちら目掛けて前進しようとしていたアイアンゴーレムはつんのめる。
そして巨体の重量を支えきることができず、思い切り地面に倒れ込もうとする。
「ふうううっっっ……」
その眼前に飛び出すのは、呼吸を整えてながら集中力を高めているウィドウだった。
彼女は倒れ込んでこようとするアイアンゴーレムの目の前に陣取り、剣を構えている。
上段に構えながら腰を落とし、力を溜め込んでいる。
込められた力の強さは、躍動する上腕二頭筋からも伺うことができた。
瞬間、爆発的な魔力の高まりを感じる。
全身に循環させていた魔力が突如として噴き出すほどに出力が上がった。
「おおおおおおっ!!」
そしてウィドウが、渾身の一撃を叩き込む。
倒れようとしているアイアンゴーレムは、無防備な状態でその一撃を受ける。
ボゴオォッ!
ウィドウの一撃にかち上げられたゴーレムの胸部に大きな凹みができる。
彼女の力は圧倒的で、アイアンゴーレムは攻撃の勢いそのまま後方に吹っ飛んでいこうとする。
けれど最初に絡みついた鎖が軋みを上げながらも脚部を拘束し続け、結果として仰向けに倒れようとする。
「――そこっ!」
今回エルザよりも早く飛び出したのはライザだった。
彼女は手に持った、薄く虹色の膜の張った短剣を、ゴーレムの核の位置へと差し込む。
『戦乙女』の得物は全て、魔法金属であるミスリル製だ。
鉄がミスリルに叶うはずもなく、彼女の一撃はゴーレムの胸部を容易く刺し貫いてみせた。
持ち手を浅くしてグリンと突き込むと、パキッと骨が割れるような音が聞こえてくる。
恐らく……というか間違いなく、攻撃が核まで到達したのだろう。
「グ……オォ……」
一瞬のうちに滅多打ちにされ核まで壊されたゴーレムが、モノアイから光を失わせそのまま活動を止める。
エルザが足を止め、アイリスが矢を番えるのを止めた。
「流石ミスリル級冒険者だな」
「茶化さないでよ」
「いや、茶化してない。本気だって」
「いいや、茶化してるわね。私にはわかるの」
お前が俺の何を知っとると言うんや……思わず何弁かもわからない方言が出ちゃったじゃないか。
「あ、あれは……?」
なぜか俺の脇をつんつくとつついてくるアイリスの猛攻から逃げていると、突如として迷宮の中に光が湧き出した。
アイアンゴーレムの身体……いや違う、身体の下の迷宮の床が輝いてるのか。
つぶさに観察をしていると、アイアンゴーレムの死骸が地面に吸い込まれるようにして消えていく。
そして死骸と入れ替わるように、何か箱のようなものが現れた。
あれって、もしかして……。
「ねぇ、アイリスさんや」
「なによ、タイラーさん」
「あれが宝箱でいいんじゃよね?」
「なぜおじいちゃん口調なのかはわからないけど……そうよ。あ、タイラーは見るの初めてなんだっけ」
「うむ」
さっきまでアイアンゴーレムだった何かのところへ歩いていく。
現れたのは、俺がイメージしている感じの宝箱ではなかった。
見た目はトランクに近いが持ち手がなく、箱の中央に集まるように細かい線がびっしりと入っている。
恐らくだがこれは魔術回路だろうな。
死骸を物に変える……本当にすごいな。
仕組みがさっぱりわからないぞ。
つい好奇心から触れようとすると、ぺしっとしっぺをされる。
俺の手をパシッと叩いたライザは人差し指を立てながら、
「めっ……だよ! 宝箱の中には触れるだけで電流が走ったり毒針が飛び出したりする罠つきのものも多いんだから」
「お、おお、すまん……」
わかればいいのだ、とライザが取り出した盗賊七つ道具みたいなやつを使ってカチャカチャと宝箱を弄り始める。
こういうのは専門職に任せようということで、俺たちは下手に罠を食らわないよう遠巻きに見つめることにした。
すると……ガチャリ、と音が鳴る。
上側が開き、ドキドキで宝箱を覗いてみると……そこにはまん丸な石が置かれていた。
「これは……多分ゴーレムの核ね。売ってお金にしましょうか」
手に取ってしげしげと眺めながら言うエルザに、『戦乙女』のメンバーが賛成する。
けれど俺はそんな彼女達に待ったをかけた。
「それを捨てるなんてとんでもない!」
だって無傷のゴーレムの核があるなら――魔導ゴーレムが作れるじゃないか!
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