第54話
俺は自分が知っている情報を取捨選択した上で、噛み砕いて教えることにした。
全てを教えることが、俺と『戦乙女』双方にとっていいことになるとは限らないからな。
まず軽めのジャブという感じで、ゴーレムの核の位置を教えてみる。
するとやはり、これですら半信半疑だった。
俺は知らなかったが、冒険者ギルドではゴーレムの核の位置は、胸の辺りと教えられるらしい。
「一度試させてくれるかしら」
「もちろん」
皆を代表してエルザが、次に遭遇したゴーレムと一人で戦うことになった。
やってきたのは全身が砂でできているゴーレムである、サンドゴーレムだ。
ある程度砂を操ることができるため、
彼女は俺が教えた位置を、しっかりと一撃で貫いてみせた。
「なるほど、本当に同じなのね……」
核を一撃で貫かれ活動を止めたゴーレムを見ながら、エルザがぽつりと呟く。
「私もやっていい?」
「あっ、それなら私も」
自分で確かめてみないと信じない質なのだろう。
他のメンバー達も続々と手を上げ、一対一でゴーレムと戦うことになった。
ゴーレム達の核をウィドウの振り下ろしが、アイリスの強弓が、ルルの炎の矢が、ライザの投げナイフが壊していく。
場所さえわかっていれば、ゴーレム討伐の難易度は確実に下がる。
見敵必殺な怒濤の勢いで、彼女達はゴーレム達を狩っていった。
ここまで核の場所が同じだと、流石に彼女達も信じざるを得ないようだった。
「ねぇ、どうして核の位置がどの個体も一緒なの? 今まで私達が倒してきたゴーレムって、基本的に核の位置がバラバラだったのに」
「恐らくこのゴーレムがどこかの魔道具職人お手製のものだからだろうな。以前はゴーレムって、魔法と魔術回路で作れたんだよ」
「そんなわけが……いえ、そういえば……」
アイリスが言葉を止める。
恐らく俺の屋敷にいる魔導ゴーレムのことを思い出したんだろう。
外に置いている防犯兼警備用のゴーレムは、この迷宮で出会うゴーレムと共通点がないではない。
あれを見た後だと、すんなり受け入れられるようだった。
屋敷に連れて行っておいて、良かったな。
「ちなみにそれだと簡単に壊されるから、普通はもうちょっと色々考える。多分この迷宮のゴーレムは手抜きで作られてるだろうな」
「いや、手抜きて……」
ライザがしらけたような顔をするが、事実である。
同じ種類のゴーレムの核の場所が共通しているのはまだいいんだ、その方が生産効率が上がるのは間違いないし。
基本的に同じ場所だけど、たまにまったく別のところに置いて意表を突いたりもできるしな。
だというのにこの迷宮のゴーレム作成者は、アースゴーレムにストーンゴーレム、サンドゴーレムと今までに出会った三種類のゴーレム全てが同じ場所に核を持っている。
これを手抜きと言わずして、なんというのか。
制作者の仕事のずさんさに憤っていると、右手に違和感が。
見るとルルに、なぜか腕をがっちりとホールドされていた。
他のメンバーとは違い彼女が着けているのはローブだけなので、何とは言わないが感触がダイレクトにやってくる。
思わずくらくらしそうになるが、丹田に力を入れてなんとか持ちこたえる。
「タイラーさんって、ゴーレム作れたりしますか!?」
「一応な」
「教えてください!」
「ま、また今度な……」
「約束ですよ!」
ルルはいつも奥手なんだが、こと魔法技術のことになると人が変わったように好奇心旺盛になる。
俺は矢継ぎ早に質問を浴びせかけてくるルルに対応しているうちに、それがそのまま全体での情報共有の役割もはたしてくれた。
核の情報のインパクトが大きかったからか、迷宮そのものが人造の建築物であることや、迷宮それ自体が巨大な魔道具であることなんかもわりとすんなりと受け入れてもらうことができたようだ。
「それでそれで、次は何かありますか!?」
「も、もうありません、勘弁してください……」
俺はルルに情報という情報を搾り取られることになり、本来言おうと思ってた以上のことを色々と話してしまうのだった。
つ、疲れるヨ、おぢさんもう若くないんだから……。
そんなこんなでぐったりしながらもゴーレムを倒してマップを埋めているうちに探索一日目は終わり。
迷宮に地べたで眠りながら周囲の警戒もして、疲れが取れずに眠れないなんてのはまっぴらごめんなので、一度皆で屋敷に戻って、明日の朝から再挑戦しようということになった。
なんだか俺が思ってた迷宮探索と違うような気がするが……現実なんて、案外こんなもんなのかもしれない。
明日は宝箱とか、見つけられたらいいな。
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