第53話
次に出てきたのはアースゴーレム二体、ストーンゴーレム一体という組み合わせだった。
今回は俺がストーンゴーレムを担当させてもらうことにする。
「次は魔法でいってみるか……ファイアアロー」
俺は初級魔法のフレイムアローを発動させる。
魔導ゴーレムは量産の都合上、同一生産ラインの個体であれば核の場所が同じになることが多い。
ある程度狙いをつけて一点突破でいいのなら、初級魔法のこいつでも十分だろう。
ちなみに魔法の分類方法は、おおまかに初級・中級・上級という風に分かれている。
魔法協会のお偉いさんが作った規定のため、中級より威力が低い上級魔法なんてもんも存在しており、魔術師からの評判はあまり良くない。
ちなみに俺も、この分類には習得難易度の指標以外としてはあまり使えないと思っている。
「グオオッ!!」
先ほどアースゴーレムの核があった右胸の、人間でいうところの心臓の辺りを射貫く。
ストーンゴーレムはその一撃で表面を抉らせたが、まだその活動を止めはしなかった。
見れば核のところまでたどり着けてもいない。
流石に中級魔法くらいは使わないと駄目か。
「フレイムランス」
炎の槍が、こちらに向かってこようとするストーンゴーレムを貫く。
今度はしっかりと核を射抜けたようで、ズズゥンと大きな音を立てながらストーンゴーレムは地面に倒れ込んだ。
さてと意識を切り替え、『戦乙女』の方を見つけると、戦力を分散させながらも器用に戦うことができていた。
右の個体をウィドウとアイリスが、左の個体をエルザ・ルル・ライザの三人で相手している形だ。
特に苦戦している余裕もないので、一応いざという時には参加できるようにしておきながらも彼女達の戦いを観察させてもらうことにする。
まずは右側で戦っている、ウィドウとアイリスだ。
こちらは非常に豪快な戦い方だ。
「オオオオオオオオオッッ!!」
ウィドウの大剣が、アースゴーレムの振り下ろしとぶつかり合う。
一撃はウィドウに分があり、焼きしめられたように固くなっている拳を半ばほどから断ち切った。
けれどゴーレムには痛覚がないため、アースゴーレムは着られた右手を地面に着けながら崩れかけた体制で左拳を振り抜いた。
「――ゴオッ!?」
攻撃の直後でわずかに動きを硬直させているウィドウに向かった拳が、その直前で動きを止める。
モノアイ目掛けて高速で飛んでくる矢を見つけたからだ。
ゴーレムは着いている単眼にその視力を依存している。
唯一の目を狙われたアースゴーレムは攻撃を停止させ、咄嗟に腕を上げた。
それにわずかに遅れる形で、先ほど目があった位置を寸分違わぬようにストッと矢が突き立つ。
ゴーレムの向かい側、ウィドウを間に隔てて向かい合っているのは、次の矢を番えているアイリスだ。
「ウィドウ!」
技後硬直から立ち直ったウィドウが、前傾姿勢で前に出る。
ゴーレムの目が完全にアイリスに向いたことで、その意識の間隙をついて一気に距離を詰めた。
「これで――トドメッ!」
アースゴーレムがウィドウの存在に気付くが、もう遅い。
ウィドウが力を溜めた放つ渾身の振り上げが唸る。
加速された鉄塊は防御に回した腕を断ち斬ってもその勢いを止めることなく、そのままアースゴーレムを一刀両断せしめてみせた。
一撃がパワフルなウィドウは、ゴーレムとの相性がいい。
彼女がいれば、戦闘で困ることはまずないだろう。
逆にアイリスの場合、ゴーレムと戦う場合はかなり狙いをシビアに設定しなければならないようだ。
身体強化を使って強引に核を射貫くことができればまた話は別だろうが……ゴーレム相手だと、火力不足な感が否めない。
……そうだ、そういえば前世では弓使いの中に風魔法を使って矢を加速させたり、鏃から風の刃を伸ばすことで殺傷能力を上げたりしているやつがいた。
今まではルルとアンナにしか教えていなかったけど、もしアイリスが乗り気なら彼女に魔法を教えるのもいいかもしれない。
左側で戦っているのは、エルザ・ルル・ライザのトリオだ。
こちらは危うげのない、堅実的な戦い方をしている。
「我が意に従い貫け炎の矢――ファイアアロー!」
ルルが詠唱省略によって発動時間を短縮したファイアアローを放つ。
その速度は弓矢と同程度。
アースゴーレムは避けることができないと判断し、アイリスの時と同じく腕を上げて防御姿勢に入った。
その間に背後に回っていたライザが、足を狙ってナイフを投擲する。
ゴーレムは球体関節とまではいかないが、動きを滑らかにするために関節部の強度が柔くなっていることが多い。
関節部にナイフが刺さったことで、アースゴーレムの動きが明らかにぎこちなくなる。
そうなればもう、高速で動くエルザの敵ではない。
彼女はアースゴーレムを速度で翻弄しながら的確に傷を増やしていく。
「――見つけたわ」
ゴーレムにとっての核は、人間における臓器全てをまとめたような非常に重要性の高いものだ。
故に核の周囲の硬度は、他の場所と比べると多少高くなっていることが多い。
どうやらエルザはゴーレムに切りつけながら、その感触から核の位置を割り出してみせたらしい。
器用だな……まだ豪快に斬るくらいしかできない俺には真似できそうもない。
両方ともあっという間に動きを止め、魔石と同様に扱われる核だけを回収して先に進んでいく。
ゴーレム程度に時間をかけてられないし、サクサク進むことにしよう。
その間にある程度、情報共有もしておかなくちゃな。
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