第52話
アースゴーレムの見た目は、レンガブロックを重ねて作り出した四角い輪郭をした、人型の巨人だ。
体躯はおおよそ三メートルほどだろうか。見上げるほどの巨体で、顔らしき部分には周囲を確認するためのレンズが一つぽつんとついている。
見た目的には、ドラ○エのゴーレムをモノアイにした感じといった方がわかりやすいかもしれない。
「グオオオオオオオッッ!」
ゴーレムが拳を振り上げ、ストレートを叩き込んでくる。
軽いひょいと避けると、拳が地面にめり込む。
地響きを立てるほどの衝撃があり、地面には拳の跡がくっきりと残っていた。
(見た目はかなり魔導ゴーレムっぽいな)
ゴーレムには魔物として自然発生する純粋なゴーレムと、人工的に作られた魔導ゴーレムの二種類がある。
これはあくまで傾向だが天然のゴーレムはいびつな形をしたものが多く、魔導ゴーレムは規格化されて生産されているせいで角張った形状のものが多い。
「グオオッ!!」
続いて足を上げ、こちらに蹴り上げようとしてくる。
デカブツだが、思っていたより速度が速い。
だが身体がついていけないほどではないので、捌くことは問題なくできそうだ。
振り回された腕の一撃を避けてから、『収納袋』に手をかける。
俺が取り出したのは、刀身が一メートルを超える大剣だ。
今回の討伐用に屋敷から取り出してきた魔導剣である。
「次はこっちの番だ」
こいつの名は、魔導剣シャリオ。
魔力を流し込むとそれだけ耐久度と切れ味が上がるようになる大剣で、なかなかな上物だが膂力の問題で前世では死蔵していた逸品である。
強化された腕力で持ち上げた剣に、魔力を流し込んでいく。
とりあえず中級魔法一発分くらいの魔力を流し込んでから、アースゴーレムのへと斬りかかる。
通常であれば持ち上げるのにもに一苦労する獲物でも、これだけ全身を魔力が循環していれば棒きれのように取り回すこともできる。
「そおれっ!!」
勢いよく叩き込んだ大剣は――そのままアースゴーレムの身体を、内側に隠されていた核ごと真っ二つにしてしまった。
「……え?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
抵抗らしい抵抗もまったくなく、溶けかけのバターをナイフで切る時のようにするりと刃が通ったぞ……完全に俺の想像以上だ。
アースゴーレムの身体にしっかりと攻撃が通ればくらいのつもりでいたんだが……こんなに威力が出るとは。
これならストーンゴーレムはおろか、アイアンゴーレムだって一刀両断にできるかもしれないな。
そりゃあ業物とか言われるわけだ。
貰い物だから値は知らないけど、買ったら相当高かったんじゃないだろうか。
前世ではゴーレムを始めとする物理特化型の魔物とは、すこぶる相性が悪かった。
ゴーレムを倒すにも、強めの魔法をぶち込んで核ごと身体を壊さなければ戦いが終わらなかったと記憶している。
身体強化が使えるようになったことで、また一つ戦いの幅が広がった。
これならそう遠くないうちに、遠近両方で戦える魔法戦士になれるかもしれないな。
「せいっ!」
声を聞き、そう言えばもう一体の方はどうなったかなと思っていると、あちらも問題なく戦いが終わっていた。
身体は斬り飛ばされ、露出した核が一突きで壊されている。
恐らく前者はウィドウの、後者がエルザの仕事だろう。
アースゴーレムは、銀級の中では比較的強いとされているタイプのゴーレムだ。
素材が土でできているため硬さはストーンゴーレムやアイアンゴーレムと比べると劣るものの、その分周囲の素材を吸収して簡単に身体を作り直すことができるため、再生能力に秀でている。
……が『戦乙女』からすればあの程度では大した問題ではないらしい。
「戦闘も終わってるし、観察してみるか……」
幸い今回は真っ二つになった以外では大きな傷もない素体が手に入った。
まず真っ二つになった核を観察し、その周囲に広がっている魔術回路を確認していくことにした。
検分の時間は、多分一分もかからなかっただろう。
うん、と一つ頷く。
ちょっと見ればすぐにわかった。
「間違いなく人の手が入ってるわ、これ」
迷宮のゴーレムに彫り込まれている回路は、人造の魔導ゴーレムだ。
天然のゴーレムにしては、回路が綺麗でシステマティックすぎる。
そもそも天然のゴーレムの場合、なんであれでゴーレムとして動くかわからないくらい適当なものを、馬力強めの核で強引に動かしてる感じだからな。
ってことは迷宮って施設はやっぱり、何か目的があって人為的に作られたものなんだろう。
でもこれ、深くまで進んでいって……大丈夫なんだろうか?
俺が対応できないような先進的な技術とか出てきたら、結構ヤバい気がするぞ。
テレポート使用禁止空間とか作られてたら詰むかもしれん。
調査は慎重にしてもらうよう、エルザに言っておくべきだな。
というわけで早速、俺はこの迷宮の危険さを伝えておくことにした。
そしていざという時には撤退を視野に入れるよう、エルザに約束してもらうのだった。
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