第41話
今回は俺がホストなので、もてなすために料理も自作して振る舞った方がいいだろう。
というわけでアイリスと別れ、夕食前に一旦屋敷の設備の点検に移る。
――そもそも今この屋敷で魔道具や設備がどんな風に稼働しているのか、実は俺もよくわかっていない。
屋敷自体かなり広いし、一度始めたら細かくメンテナンスとかをしなくちゃいけなくなりそうだったから、面倒で放置していたというのもある。
あとなんていうんだろぶっちゃけここって引きこもって研究するのに最適になるように作られてるからさ。
整備して完全自給自足生活できるようになったら、また引きこもりが発動しちゃいそうで怖いから、あんまり見ないようにしてたのも大きい。
「これも良い機会だし、まずは生け簀から見てくか」
この屋敷にある食料生産設備は、外の畑だけじゃない。
一人用なのでそこまで大きなものじゃないが、一応生け簀と牧場があるのだ。
生け簀と牧場の方には成長促進の魔法陣を敷かているため、本気になれば通常の数倍の速度での生育が可能となっている。
生け簀をのぞき込んでみると、そこには鱈やカマスなんかが泳いでいる。
そのサイズも通常の倍近くあり、中にはみっちり具が詰まっている。
お腹も膨らんでいて、中に入っている魚達は太っちょ揃いである。
「魔法陣の方は問題なく動いてるな」
生け簀の脇には魚を長期保存できるように塩漬けと天日干し用のスペースがあり、その脇には大きめの冷蔵庫も置かれている。
塩漬けの方は既に塩が切れているため何もなくなっており、天日干し用の場所には大量に置かれている干し魚の姿があった。
保存期間が長くダメになっているものもありなかなかにファンキーな匂いがする。
生け簀の脇に置いてある鮮魚の保存用の冷蔵庫からもすえた匂いが漂ってきており、開いてみると当然ながら既に冷蔵機能は切れていた。
息を止めてから中身を一旦全部外に出してから、頷く。
「うん、一旦全部焼き捨てよう」
菌とかが少し怖いから、問題なさそうに思える干し魚も含め、今入っている分は全て焼却処分してしまうことにした。
今回は生け簀から取り出した生魚だけを、使わせてもらうことにしよう。
なんだか疲れたから牧場の方はまた今度見ることに決め、キッチンに入る。
何にしようかと思い、何度か一緒に食べた時の『戦乙女』の食卓を思い出してみることにした。
彼女達はがっつりとしたものが好きな組と、あっさりとしたものが好きな組に分かれている。
俺の料理の腕は並以下なので、あまり難しいものは作れない。
なのでとりあえずフライとカルパッチョを作ることにした。
まずはフライ作りから。
カマスをサッと下ろそうとして、失敗した。
俺は自分のあまりの包丁さばきっぷりに愕然としながら、風の刃を使って魚を下ろしていく。
悪戦苦闘しながら骨を取り除いてから、ざっくりと切り分けてみた。
身がぶりんぶりんに詰まっているので、一匹から結構な量のフライが作れそうだ。
次に卵をサッと溶き、小麦記と混ぜ合わせていく。
その上にパン粉をまぶしてから油を入れた鍋に入れれば、あっという間に完成だ。
続いてカルパッチョだが、こっちはもっと簡単。
事前に用意していた葉野菜を適当に刻んでから、先ほどの余りの切り身を乗せて、上からドレッシングをかければ完成だ。
これだと腹が溜まらないので白パンも用意して、テーブルに運んでいく。
「わあっ、すごいサクサク!」
「カリッとした食感が来たかと思ったら、魚が口の中でほろほろと溶けてく……美味しいわね、これ」
『戦乙女』の皆からの反応も上々で、一安心である。
美味しい美味しいと言って食べてくれている彼女達の顔を見ていると、俺の心も弾む。
料理が趣味だと言っている人の気持ちが少しだけわかった気がした。
食事を終えて、ふぅと人心地つく。
片付けはやってくれるというのでウィドウにお任せし、俺もぐでーっと椅子の背もたれによりかかる。
食後の血糖値の上昇のおかげで、目をつぶれば今にも眠れそうだった。
「タイラーは明日、何か予定あるの?」
「明日か……とりあえず身体強化の練習がてらガルの森に行こうと思ってるけど」
「そう、わかったわ。私達、明日からまたしばらく家を空けることになるから。その前にタイラーと再会できて良かったわ」
「大人気だな」
「誰かさんのおかげでね」
ドラゴンスレイヤーというネームバリューはすごいらしく、『戦乙女』にはここ最近色んな指名依頼が舞い込んでいるという。
あのアイーダからの一件以降まったくなしのつぶての俺とは偉い違いである。
「何しに行くんだ?」
エルザから返ってきた答えに、俺は自分の耳を疑った。
「なんでも北の高原にゴーレムが出没したみたいでね。迷宮ができたかもしれないから調査しに行ってほしいんですって」
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