第10話
ガルの森は東に進めば進むほど、魔物が強力になっていく。
だが逆を言えば、浅瀬であれば俺が普段狩っているような、ゴブリンやオークといった雑魚魔物程度しか出てこない。
ミスリルランクの『戦乙女』からすると鼻くそみたいなものだが、これでも俺は一応は銀ランク冒険者。
当然ながら戦闘にも参加した方がいいだろうということで、一度連携を取りながら戦うことにしようと向こうが提案してきた。
ぶっちゃけめんどくさかったが、ミスリルランクということは冒険者という縦社会においては、あちらは俺の上司なわけだ。
なので言うことは一応、最低限は聞いておく。
「ストーンバレット」
「ぶひいいいいっっ!!」
俺の石弾を頭部に食らい、頭が陥没したオークが地面に倒れる。
そこから魔石を取り出し、ついでにナイフで肉を切り出していると、何対もの視線に気付く。
顔を上げれば、エルザ達がこちらを呆けたように見つめていた。
「すごい、低威力の土魔法で詠唱破棄までして、一撃でオークを倒せるなんて……」
「それってすごいのか?」
「すごいなんてものじゃありませんよ! そもそもの話、詠唱破棄はですね……」
メンバーの中で唯一よくわかっていない様子のウィドウが尋ねると、ルルはものすごい勢いでマシンガントークを始めた。
魔術師のルルは内気で静かな子だとばかり思っていたが……どうやら好きなものになると目の色が変わるようだ。
「ごめんなさいね。あの子、ああなると長いから」
「ああ、それは別に構わんが……」
話がちんぷんかんぷんなのか、適当に相づちを打っているウィドウに対しても、ルルは今の俺のストーンバレットがいかに技術的に優れているかを話している。
俺のことをめちゃくちゃ褒めているので、正直聞いていてむずがゆい部分もあるが……話を聞いているうちに、俺はルルの優秀さに驚いていた。
(どちらかというと俺寄り……というか以前の魔術師に似た考え方をしてるんだな)
俺が知っている限り、イラの街に詠唱破棄や無詠唱を使う人間はあまりいない。
以前はわりとポピュラーだったんだが、どうやらこの三百年でかなりマイナーな技術になってしまっているのだ。
詠唱というのは、めちゃくちゃ現代人的な説明をするなら、一筆書きで書く仕様書のようなものだ。
基本的には、魔術師達の叡智を結集させて極限まで圧縮している詠唱の土台部分を使い。
そこに魔術師がアレンジを加え、いくつかの単語を加えることで威力や速度を増加させたりして自分好みに魔法をカスタマイズしていくというのが一般的なやり方だ。
現代の魔術師の詠唱は、ぶっちゃけ長い。
お世辞にも魔法を極めたとは言えない俺でも冗長性を感じてしまうくらいに長い。
そのおかげで威力は詠唱破棄や無詠唱と比べると高いが、使うまでに詠唱破棄を行った場合と比べると3倍の時間がかかり、威力は1.5倍程度。
それなら詠唱破棄や無詠唱でバンバカ魔法を使いまくった方が総ダメージ量が多くなる。 そんなどちらかと言えば相手HPを削るようなゲーム感覚な考え方が、以前の魔術師界隈では主流だった。
ルルの思考法は、その当時の考え方にかなり近い。
「タイラーさんっ!」
「な、なんだ?」
「次は私が戦うので、私の魔法を見て改善点を教えてください!」
「ああ、構わんが……」
そう言うとルルは魔物を探してキョロキョロと周囲を見渡し始めた。
それを見て、エルザがはぁとため息を吐く。
どうやら癖の強い『戦乙女』のメンバーをまとめるのもなかなか大変なようである。
俺の視線に気付いたエルザが、こちらに近寄ってくる。
最初の頃のキリッとした麗人という仮面が外れた彼女は、呆れたようで首をかしげる。
「ねぇタイラー、あなたその腕があって、なんで銀ランクのままなのよ?」
「よく言われる」
「……それ、答えになってないわよ」
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