春と彼女と加速する想い
三連休から、半年経ったか経ってないかの休日。
彼女と私のことについて、色々とあれから考えていた。
日に日に募る思考は、私の想いを加速させていっていたのだ。
「同棲ってしたい?」
んなぁぁぁ。
もう少し緩く聞こうかと思っていたのに、いざ聞くとなって口から出たのは直球の言葉だった。
しかも、私の気持ちを言わずして、彼女にしたいかどうか聞いてさ。彼女からしたら急になにってなるだろうに。
案の定、彼女は驚いたあと少しだけ不安を覗かせた表情をしていたし。
言い方を間違えた自覚はある。そういう聞き方をしたかったんじゃない。
「ごめん。言い方を間違えた。私が、前より一緒にいたい気持ちが強くなったので同棲したいなという気持ちが強くなったってことを言っておこうと思って。それで、どう思ってるかなって聞きたくて。勢いで口を開いて出た言葉がさっきのになっちゃったんだけど。なんか、急にごめんね」
「謝らなくていいから。驚いたけど嬉しかったよ」
「本当に?」
「うん。けどさ、なんで同棲って考えになったの?」
私は前から考えてはいたが、彼女からしたらそりゃあそうだ。
お互い、同棲について今の感じでいいよねって話できたからなおのこと理由は必要だろう。
「もっと一緒に居たいという気持ちが強くなったの」
「……同棲すると、相手の嫌な部分がもっと見えるかもよ」
「うん」
「それに、一人ならダラダラしていられるけど、一緒に暮らすとなると相手にも気を使うんだよ。最初は良くても負担になるかもしれないんだよ」
「うん。わかってるよ」
「好きって気持ちだけじゃどうにもならないこともあるんだよ」
「うん。……わかってるし、私一人の気持ちでどうにかなるものでも無いこともわかってる。だからこそ聞きたくて。同棲のことどう思う?」
同棲したあとの延長線上に、別れるって選択肢が少しでも見えるならしたくは無い。
けど、今の二人ならその選択肢はない、と思う。私だけの考えだけど。
「さっきも言ったけど、嬉しかったよ。けど、不安なところもあるかな」
頷いて彼女の話を促す。
「お互い、今の生活が気に入っているのもあるじゃん。正直、ずっと一緒に居たいと思うし、暮らしたいと思うけど。今の勢いで同棲するのは避けたいのもあるんだよね。いつかはしたいけど、今このタイミングなのかどうかってところでさ」
「うん」
彼女の言いたいことは分かる。このままの生活だってなんら支障はない。勢いでしてダメでした。解散。なんてことにならないとは言いきれないのもわかる。
さっきまで別れるなんて選択肢がほとんど無に等しかったのに、彼女の反応を見て焦燥感に駆られてしまう。
「反対って訳では無いんだよ。ただ、今の状態がいい感じなのに壊れた時のことを考えると怖いなって……。それに、そんなことで別れたくはないから」
「うん」
彼女の言う通りだ。同棲は二人の関係性を深める過程であって、お互いの目的でも目標でもない。二人で仲良く過ごせるのが一番なのだ。
私は、彼女になんて声を掛けたらいいのだろうか。
じゃあ、保留でとは違う。今回はなしも違う。まぁ、気が向いたらも違う。あれもこれもと出てくる言葉は全部違うくて。
そのまま黙ってしまう。
いい大人が、こういう時に気の利いた言葉も彼女を安心させるような言葉も掛けれないのだ。
「もう少し話し合ってみようよ。お互い、同棲について思ってることとか。私らにはその話し合いが少なかったんだよ」
「うん。ありがとう」
「いいえぇ、どういたしまして」
彼女の言葉に、態度に救われる。
「じゃあ、話し合いしながらおやつ食べよ」
空気が柔らかくなった気がした。いや、実際に柔らかくなった。
「今日のおやつはなにー」
「抹茶のチーズケーキだよ」
いつものケーキ屋さんで、四月の新作であったのが抹茶のチーズケーキだった。
「やったー。聞いただけで美味しそう」
「私がお茶を入れるから、ケーキをお皿に出してもらってもいい?」
「任せなさい」
嬉しそうに冷蔵庫からケーキの箱を出してきて、箱を開けると「うわぁー」と感嘆の声を上げていた。
嬉しそうにお皿に取りだし、リビングの方へと持って行ってくれる。
その様子を眺めつつ、お茶を入れて持っていくと彼女がソワソワと待っていた。
「では、いただきます」
「いただきます」
一口。口の中に入れれば、ほのかな甘さと苦味と共に抹茶の風味が鼻から抜けていき、爽やかな味わいだった。
「これ、美味しい」
彼女も嬉しそうだ。
「あのさ、同棲について……」
ちびちびとケーキを食べつつ、彼女に話を振る。話題の切り口は下手くそで笑ってしまったけど。
私の考えを彼女に伝えていく。
これからも一緒にいたいということを特に強調して。
そして彼女の考えも聞いていく。
「じゃあさ、こういうのはどう?」
彼女の提案に吟味を重ねつつ、お互いの折り合いやこれからの二人について話し合っていった。
普段、こういう風に話し合いをしてない訳では無いが、相手の考えを聞くということにおいてはおざなりになっていたのかもしれない。その事実に心の中で反省した。
言わなくてもわかってくれるなんてことは無い。言わなきゃ伝わらないことの方が多いのだ。
ケーキを食べ終えても話し合って、お茶をもう一回入れ直したところで、なんとなくだが、話し合いに終わりが見えた。
「これでどう?」
「いいと思う」
まずは月に一週間。どちらかの家で一緒に暮らすというところから始めてみることになった。
三日まではあったが、一週間は一緒に過ごしたことは無かった。ましてや仕事をしている日にお泊まりするなんてことは少なかった。
「一緒に考えてくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとう。前までそんな感じじゃなかったのに、今ではもっと一緒に過ごしたいと思ってくれてて嬉しかったよ。私だけかなって思ってる時もあったし」
「そんなことないよ。言ったら困らせるかと思って」
「お互いさ、好きすぎて遠慮してたね」
「うん。これからはさ、少しずつでいいから、こういう風に気持ちを伝えていけたらなとは思ってる」
「うん。そうだね」
顔を見合わせる。それがなんだか恥ずかしくて笑ってしまえば、彼女もそうだったらしく同じように照れて笑っていた。
他の人はどうだか知らないが、私と彼女はこのペースでいい。
窓からは暖かい風が吹いてきた。春はもう来ている。
私と彼女の日常 立入禁止 @tachi_ri_kinshi
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