桃の節句と桜餅と違い
「今日はひな祭りということで、桜餅の食べ比べね」
三月三日。桃の節句。女の子の成長や幸せを祈願するイベントだ。
幼少期にはお雛様も出してもらっていた。
迷信だが、お雛様の片付けを遅れると婚期を逃すとかなんとか。よく考えたものだなと感心してしまう。
お茶を用意しながら、そんなことを考えていると、彼女も調べていたのか、お雛様について説明してくれた。
「へぇ、お歯黒は既婚者って意味だったんだね。うちのお雛様は二人だけだったから三人官女とかいなかったからなぁ」
お茶を持っていけば、画像を向けてくれながら細かく作ってあるんだってーと見せてくれた。
「うちは昔ながらの家だったから七段まであって。三人官女もいたよ」
「えっ、生で見れたってこと?」
「生って……。まぁ、そうだね。子供ながらに夜に見るお雛様は怖かったけど、作りが細やかで、人形もそうだけど小物にも目を惹かれてた記憶はあるかな」
「それはわかる気がする。装飾品も細かくできててすごいよね」
「ねー」
買ってきてあった桜餅を少しだけ温めて彼女の前に差し出すと、興味と視線は携帯から桜餅へと移っていった。
花より団子な彼女に笑ってしまう。
そういう私もそうだが。
「ひし餅じゃなくて桜餅なのはなんで?」
「桜餅の桃色と緑が桃の節句にあってるからなんちゃら的な感じだったと思うけど。うちではひな祭りに食べるイメージだったから買ってきちゃっただけだけど好きじゃなかった?」
「ううん。好きだよ。けど、我が家はひなあられやちらし寿司ってイメージだったから新鮮で」
「ちらし寿司は夕飯だから」
「えっ、夕飯にちらし寿司なの。やったー」
「おやつ食べたら買いに行こうね」
「はーい。……ねぇねぇ、桜餅が二個あるけどなにか違うの?」
「道明寺の桜餅と小麦粉の桜餅」
彼女の頭にハテナが浮いている。
「道明寺粉を使ってる桜餅と小麦粉の生地の桜餅ってことだよ」
「あぁ……なる、ほど」
あまりよくわかってないな。
「関東風と関西風って言ったらわかりやすい?」
「あぁ、それなら?」
彼女がたぶん理解してくれたところで、お互いに手を合わせてから桜餅を食べ始めた。
「ん、美味しい」
「うん。美味しい」
少しもちもちのクレープみたいな生地とこし餡。餡子も甘すぎず食べやすい。
「関東風の方が長命寺って言うんだって」
「へぇ」
彼女がすぐさま調べてくれて、関東風と関西風の違いを教えてくれた。
「私はこっちの方が好きかも」
そういう彼女が食べているのは道明寺の方だった。もち米に餡子が包まれたやつだ。
「私もこっちかな」
桜餅というと関東風も馴染みはあるが、もち米が好きなのもあって関西風の方が好みなのもある。
「これって、桜の葉っぱなんだよね」
「そうそう。塩漬けにしたもので、一緒に食べると風味が良くなるよね。昔は苦手だったけど」
「わかる。葉っぱだけ剥がして食べてた記憶があるもん。親に怒られたけど」
「確かに怒られた記憶はあるかも」
「ねー。これはさ、大人にならないとわからない食べ物の一つではあったよねぇ」
「たしかに」
お茶を飲みつつ食べ進めていけば、二個あった桜餅はすぐになくなってしまった。
「もうなくなっちゃったね」
「次は柏餅かなぁ」
「柏餅もいいね。柏餅こそ葉っぱは食用ではないもんね」
「そうなんだけど、一度は食べれるんじゃないかって口に入れたくなって食べたことはあるけど、やっぱり無理だったよね」
「わかるわかる。一度はやっちゃうよね。柏餅も楽しみだなぁ」
「最近お気に入りの和菓子屋さんが出来たから、買ってくるね」
仕事の帰り道。帰宅中の寄り道で見つけた和菓子屋さん。
少し甘いものが欲しくて、おはぎを買って帰って食べたが美味しかったのがきっかけで、そこからちょくちょく通っているのだ。
ここ最近で見つけたから、彼女は連れていったことはない。
「柏餅買う時さ、私も一緒に行きたい」
「そうだね。一緒に行こうか」
「いくいく。おはぎも食べてみたいし」
美味しい和菓子屋さんを見つけて、おはぎの話までしてあったが、彼女も食べたかったのか。
絶対に買ってあげよ。
「お団子も美味しそうだったし、ねりきりを買って抹茶で頂くのもいいかもね」
「それやりたいっ」
彼女を見ると目が輝いていた。
「じゃあ、それもやろっか」
「楽しみだねぇ」
「ねー」
少し先の約束。それすらも待ち遠しくて今か今かと待つ時間すらも愛おしい。
けど、今は目先の約束だ。
「さてと、ちらし寿司でも買いに行きますか」
「はーい」
日曜日の今日、彼女は泊まってくれるらしい。一緒にいれることが嬉しくて頬が緩んでしまうのを、彼女に悟られないようにと表情を引きしめ直した。
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