年末と年越しと年明け


 怒涛の仕事をなんとか終わらせて、年末年始は実家に帰ることなく自分の家で有意義に過ごす。

 彼女はというと、実家に帰省するとのことだった。

 会えるのは年が明けてからだ。

 少しだけ寂しい気持ちもあるが、仕方がない。

 なんなら自分も帰省すればいいだけなんだけど、面倒臭くてしたくない気持ちの方が大きい。

「あぁー、ひま」

 テレビもついてはいるけれど、特に見る気にもなれずウダウダと寝転んで、お腹がすいた時にご飯を食べ、ゴロゴロと気ままな生活を、休日一日目からしている。

「ひまだけど、贅沢だよなぁ」

 働き出してから休日の有難みか身に染みるものだ。

 そうは言っても、やることはある。

 年末イベントの大掃除。普段できないところのお掃除をしなくてはならない。

 他の場所は普段からしているだけあって、特に大した汚れもないけれど、していないところは目を瞑りたいくらいだ。

「この時期になると無性に欲しくなるよなぁ」

 ただついているだけのテレビからは、高圧洗浄機を売り出している番組が流れていた。

 欲しくはなるけれど、毎年買わないのもお決まりだ。買ったとしても年に数回の出番だろう。

「よいしょっ、と」

 勢いのまま起きて、まずは買い出しにでも行くかと出かける支度をする。

 買い物するにしても、世の中も一部を除いて長期休暇の会社が多い。学校も冬休みに入っているとなると、平日の街中はいつもより騒がしかった。

 人に紛れながらも買いたいものは全て買い終え、自宅に戻る。

「一回、ゴロゴロするかな」

 買い出しをしただけ偉い。とりあえずコタツに入り暖を取りつつ、買ってきたお菓子の袋を開け、暖かいお茶を飲んで一息ついた。

 そうしてウダウダしたまま一日を終え、翌朝を迎える。

 その生活が良すぎて一日一箇所大掃除になっていくのではと懸念したが、掃除もやり始めるとなかなかだった。

 洗濯機や水回り。そのついでにと色々手をつけていけば一日で終わってしまったのには自分でも驚いたくらいだ。

「やれば出来るじゃん」

 買い出しもしたし、食べるものも特に困らない。あと、やることと言えばゆっくり休むことだけだ。

 彼女との連絡もとりつつ、メッセージから楽しんでいるようでほっとした。

 お互いに送りあった独占欲。彼女が自撮りしてくれた写真からそれらが写っていて、恥ずかしいようななんとも言えない気持ちになったが、つけてくれていることにもほっとしたのだ。

 そうしてなんの変哲もなく一日、一日を過ごしていく頃には早いもので、年末になっていた。

 休日の時間の進み方がえぐい気がするけど、仕方がない。

 紅白を見つつ、年越しそばを食べる。今年は豪勢にと天ぷらも揚げちゃったりなんかして。

 多めに作った天ぷらは明日のお雑煮にもいれよう。

 紅白も見終わり、あとは寝るだけ。年越しに起きているのも悪くないが、眠たいのもあるしとベッドに行くだけ行って横になったのと同時に携帯が光った。

「もしもし」

 彼女からの連絡に頬が緩んでしまうのは仕方がない。年の最後に彼女と話せるだけで嬉しいと思ってしまったのだ。

 彼女との他愛のない話。声や笑い方。


 ……会いたいなぁ。


 彼女には言わないけれど。言わなければ伝わらない。けれど、言って困らせたくもない。なんなら恥ずかしいし。


「あっ、あと一分だって」

 彼女の声で目覚まし時計を見たが、五分進めてある時計は既に日を跨いでいて、彼女のカウントダウンだけが頼りだった。

「明けましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます」

 お互いに、今年も宜しくお願いしますと伝えあって、どちらかともなく笑い合う。ただそれだけなのに楽しい。

 それから数分話していると、どんどんと睡魔が襲ってきた。

 それは彼女にもバレバレだったようで。

「もう眠たい? 電話、切る?」

「眠たいけど……切りたくはない、かな」

「じゃあ、繋げたまま寝よっか」

「……うん」

 返事もしつつ、彼女の話をひたすら聞きながら夢の中へと落ちていった。


 気が付いて起き上がれば、既に朝だった。

 繋いでくれていた電話を見るが、通話は終了していたことに夢だったんだと納得してしまった。

 あの時は記憶も曖昧で、彼女におやすみなさいを言ったかどうかすら覚えていないのだ。


 ピンポーン。


 突然鳴ったインターホンに、時間を確認すると午前八時。

 元旦の早朝から荷物なんて。福袋も結局買わなかったし、配達も無いはずだ。

 インターホンの画像を見ると……。


「なんで、」


 急いで玄関に向かって扉を開けるとそこに居たのは彼女だった。しかも、いい笑顔だ。

「やっほー。あけおめのことよろ」

「あけおめのことよろだけど、なんで……」

「とりあえず入れてー。寒い」

「あっ、うん。おかえりなさい」

「ん、ただいま」

 彼女を家に招き入れ、その間に自分もある程度身支度を整えた。

「それで、なんで?」

「会いたかったから。ただそれだけ」

 あぁ。彼女は私が言えなかった言葉をいとも簡単に言ってしまうのだ。嬉しいけれど、ずるいと思ってしまう。

「声を聞いたら会いたくなって、そのまま朝一で帰ってきちゃった」

「ありがとう」

「いや、ありがとうじゃないよ。私が勝手にそう思ってしちゃっただけで。都合も予定も考えずに来ちゃったし」

「私も会いたかったから。だから来てくれて嬉しい」

 年明けから意地を張ってどうする。伝えたいことは伝えないと伝わらないのだ。

 私の反応が予想外だったのか、彼女の頬が血色よく染まっていった。

「急にデレるのやめて。年明けから幸せすぎて辛い」

「あはは、なんだそれ。お雑煮作るけど食べる?」

「たべるー」

 昨日のお蕎麦のお出汁でお雑煮を作って、天ぷらを温め直して彼女に出せば、豪勢と喜んでいた。

「おいひぃ」

「それは良かった」

 嬉しそうに食べる彼女に続いて食べるが、彼女の言うとおりお雑煮は確かに美味しかった。

 こんなに美味しく感じるのはきっと……。

「ねぇ、初詣は行く?」

「お昼過ぎにでも行こうか」

「さんせー」



 もう祈ることは決まっている。

 彼女の幸せと穏やかな日々。ただそれだけだ。




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