仮装と理性と10月31日
「なんだこりゃ……」
激務が終わり、家に帰ればリビングの机の上がお菓子だらけになっていた。
えっ?なにこれ?と思考をめぐらせれば思い浮かぶのは一つのイベントだ。
今日はハロウィンだったか……。
お風呂場から聞こえるシャワーの音に、彼女のものとわかるそれら。きっと職場の人と交換したものであろうお菓子がどっさり置かれてるのを見て、よくこれだけのものを持って帰ってきたなと感心してるところに、丁度よくお風呂場から彼女が出てきた。
「やっと帰ってきた、おかえりなさい」
「ただい、ま」
振り返れば、じゃじゃーんっと仮装した彼女がいた。
「なにそれ」
「なにそれって猫だよ。ねーこ。同僚と買って帰ってきたの。荷物も多いし自分の家よりこっちの方が近かったから来ちゃった。それよりもどう? なかなかいけることない?」
これは……。
かわいいがすぎる。言葉は悪いけど、くっそかわいい。心を押さえて悶絶していれば彼女がにじり寄ってくる。
「えー、なんか言ってよ、無言とか寂しいんですけど?」
むくれた彼女を下から上まで何度も見てしまう。
あーだめだ。これってさ、もう誘われてるよね。手を出しても怒られないよね。 明日も仕事だけどいいよね。ひたすら自問自答を繰り返す。そんな私の態度に彼女はしびれを切らして呼んできた。
「ねぇ、そろそろ感想くれない? けっこう恥ずかしいの我慢してるんだけど……」
はい。さよなら理性。こんにちは煩悩。
彼女に近寄るが危険を察知されてしまったのか、さっきとうって変わって後方に下がって行ってしまう。
「かわいいよ。すごくかわいい」
彼女に手を伸ばす。
「なんで避けるの?」
「いや、なんか雰囲気が」
「ん? 感想を聞きたいんでしょ?」
「そうだけど……」
「逃げない逃げない」
背中が壁について行き場をなくした彼女を、伸ばした手でようやく捕まえる。
頬から唇に手を滑らせ、反対の手で腰のラインを指を滑らせれば彼女が慌てはじめた。
「ちょっ、と待って待って」
体を押して離れようとする彼女を押し返す。
「どのくらい待てばいいの?」
その間も彼女に触れることはやめない。
「どのくらいって。あっ、ごっ、ご飯食べてからとか、その、お風呂も今ちょうどいいよ」
「んー、今はご飯よりこっちかな。お風呂はあとでまた一緒にはいればいいし」
体が痛くなっちゃうかなとか思いつつも、ソファーに連れていく。
「かわいいね。本当にかわいい」
ソファーにゆっくりと押し倒して、彼女の肌が露出している部分を撫でていくと、観念したのか手で顔を覆っていた。
「これは、さすがに照れましてですね。出来れば着替えてからがいいかなぁって」
まだ観念してくれない彼女にダメ押しの一言をかけるのだ。
「Trick or Treat」
耳元で囁くと彼女がかわいく反応してくれた。
「お菓子がないからいたずら、だよね」
「いや、あの、お菓子ならそこに、」
全部答える前に彼女の口を塞いだ。何度か角度を変えて触れていくと彼女の体から力が抜けていくのがわかった。
一度離れてもう一度顔を寄せると、手で顔を止められて顔がひしゃげて痛い。
「うぶっ」
「いたずらするなら、ここじゃやだ」
「あ、はい」
「あっちまで丁寧に連れてってくださーい」
「仰せのままに」
しがみついてくる彼女を抱き上げようとしたけれど、無理だったので手を引いてベッドまで歩いていく。
「今日も疲れた?」
彼女をベッドに横たわせれば、突然そう聞かれた。
「疲れたよ。ハロウィンなんて気付いてなかったし」
「お疲れさまだねぇ。じゃあ、私が癒してあげる」
「……すきっ」
「あはは」
彼女に覆い被さり抱きしめる。
「ぐぇー、重い」
「可愛すぎるのが悪い。あと私の愛の重さを知ればいい」
「それを言うなら私の愛の重さもくらえ」
抱きしめた力より強く抱き締め返されて、また強く抱き締めて、と笑いながら彼女じゃれ合った。
「明日も仕事なの忘れてないよね?」
「現実に戻さないで……」
「あはは、私で癒されれば問題なくない?」
「それは、問題ないけど、寝不足になってもいい?」
「明日もここに帰ってきていいなら」
「いいよ」
「ふふっ、じゃあ二人で寝不足になっちゃおうか」
首に手を回され彼女に引き寄せられた。
目覚ましだけはセットしておかなければ……。時計に手を伸ばしたあと、心ゆくまで彼女に溺れていくのだ。
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