三連休とお出掛けとまったり③
三日目。
「んんっ~」
昨日と同じように、起きてから伸びをする。
「かわいい」
昨日と同じじゃないのは、彼女が先に起きていたことだった。
驚いて一気に目が覚める。
「おはよう」
「……おはようございます」
「なんで敬語?」
「なんか、なんとなく? それより早起きだね」
「でしょでしょ。褒めてもいいよ」
「えらいねぇ」
褒めると彼女はご満悦そうにしていた。
「朝ご飯は、私が作るね」
「いや、昨日も作ってもらったし、」
「いーいの。私が作りたいからまだ寝てていいよ」
そう言い残して、彼女はさっさとベッドから降りていってしまう。けど、途中で引き返してきてなにかと思えばあたまをクシャクシャに撫でられた。
「すきっ」
そのまま、おでこに一つの感触を残して今度こそ彼女はキッチンに行ってしまった。
残された私はと言うと、そのままベッドに沈んでいく。
「あれはずるい……」
嬉しさ半分と恥ずかしさ半分。
そのまま彼女に呼ばれるまでベッドでうだうだとし、呼ばれてからリビングに行けば、いい匂いと共に机に並んでいた朝食にお腹が鳴った。
「いいお返事だねぇ」
「顔洗ってくる」
急いで顔を洗い、戻れば彼女がエプロンを外して座るところだった。
「今日はグラタン?」
座ってから彼女にそう聞けば、得意げな表情をしていた。
「パンでグラタンにしてみましたー。トースターでカリカリに焼いてからシチューをかけてチーズを乗せてオーブンで加熱すれば、パンでグラタンの完成」
残っていたフランスパンと食パンを使ってくれたらしい。
「全部使っちゃえってやってたら多くなっちゃったけど……」
確かにグラタンの量は多めだったが、なんとかお腹に入りそうな量だ。
「これくらいなら大丈夫じゃないかな。食べでもいい?」
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」
彼女は私の様子を静かに見ている。
「美味しい。サクサクの部分も残ってて、パンの食感もチーズのとろけ具合も全部完璧」
「良かったぁ。私も食べよ。いただきます」
私の反応に、彼女は安心した様子でグラタンを食べ始めた。
「んまっ。私、天才じゃん」
その反応に笑ってしまったが、まさにその通りだ。
一日目はシチュー。
二日目はドリア。
三日目はグラタン。
シチューのバリエーションが豊富で驚いてしまったくらいだ。
今度からシチューが残ったら真似をさせてもらおう。
彼女にそう伝えれば、嬉しそうだった。
「今日はどうしようか」
あまりに褒めすぎていたら、照れ隠しなのか話を遮断され、今日の予定を聞いてきた。その反応にニヤニヤしているつもりは無かったのだが、彼女に小言をもらいつつ、グラタンを食べながら今日の予定を一緒に考える。
「どうしよっかねぇ」
「どうしよっかぁ」
出てくる言葉はどうしようか。それだけ。
「どこか、行きたいところはないの?」
「うーん。あるにはあるけど今日じゃなくてもいいし」
「じゃあさ、お家デートにしちゃう?」
「うん。する」
彼女の行きたいところが今日ではなくてもいい。それならお家デートはどうかと提案してみると即答で肯定してくれた。
少しは渋るかなと思ってしまっただけに拍子抜けだった。
「本当はさ、お家でまったりしたいなぁって思ってたんだよね……。ごちそうさまでした」
パンッと手を合わせて、食べ終えた食器を持ってキッチンの方に行ってしまった彼女の背中を呆然と眺める。
「かわいいかよ」
緩む顔は引き締めることはせずグラタンを食べ終え、彼女の元に行き、洗い物を手伝う。
その間、会話は一切なかったが「顔がうるさい」と彼女にお叱りをうけたが、そんなのは気にしない。
二人で動画配信されている映画を漁り、気になる動画を観ることに。
飲み物はお茶。それとお茶菓子にパン屋さんで買ってきていたラスク。
「おじゃましまーす」
映画が始まる前、彼女が私が座っている足の間に座り込んできた。
「まだ、いいって言ってないけど」
「いいのいいの。それとも嫌だ?」
「ううん。大歓迎」
座り込んだ彼女を後ろから抱きしめると、嬉しそうに前に回った私の手を掴ま彼女の手と繋がれた。駆け足になった心音は彼女にバレているかわらないが、いつになっても照れるものは照れる。
テレビを見ている最中も、手をニギニギする彼女に翻弄されつつ無心を貫き、若干のイチャイチャをしつつ見終えると時間はお昼を少しすぎていた。
「お昼ご飯は用意してあります」
「おぉぉぉ……」
「少し待ってて」
朝同様に、キッチンへと消えていく彼女の背中を見送る。その数分後にはいい香りが漂ってきていた。
これは……。
彼女に待っていてと言われたが、この匂いが当たっていればそろそろかなと思いキッチンへと赴くと、案の定あと少しで出来上がりそうだった。
「鶏南蛮そばだ」
彼女の作ってくれる鶏南蛮そばが好きだ。簡単に出来るように見えるが、鶏肉と葱は一度焼かれてからつゆの入った鍋に入れられている。ひと手間がかかっているのだ。あと、味が優しい。なんか好みの味なんだよなぁ。
「はいっ、できたー。持ってって食べよ」
「うん」
リビングの方に運び、二人で手を合わせて食べる。葱は焼かれているのと煮込まれているのでシャキシャキのトロトロだ。鶏肉も香ばしくぷりぷりとしていて美味しい。
「おうぃひぃ」
お行儀は悪いが、食べてる合間にも美味しいと伝えたくなってしまう。彼女も同じように「おうぃひぃ」と言っていて、お互いに笑いあった。
それからまた映画を一本。そうすると時刻はすでに夕方。そろそろ帰る時間だ。
「三連休、ありがとね。楽しかったよ」
「こちらこそ。楽しかった」
彼女に感謝を伝えると、彼女もまた感謝を伝えてくれる。
持ってきた荷物を持ち、玄関に向かう。
「また来週」
「うん。気を付けて帰ってね」
「うん」
「帰ったら連絡して」
「わかった」
あぁ、すきだなぁ。
帰りたくないなぁ、と思ってしまうこの時間が苦手だったりする。
こういう時に、帰る家が同じだったらと考えてしまうのだ。
そう思ったからといって、はいっ、同棲。とはいかない。彼女ならいい返事はくれそうだけれど、彼女と別れたくないからこそ。これからも居たいからこそ、そこは慎重になりたい。
まぁ、私だけの考えだけれども。
今度、彼女に話してみるのもいいのかもしれない。これは私だけの問題では無いのだ。
私たち二人の問題。近い未来、このことについて彼女と話をしよう。
「じゃあ、またね」
「うん、またね」
見送られて、後ろ髪を引かれる思いで彼女の家を後にした。
家に着いたら連絡してね、と言って寂しさを隠して送り出してくれた彼女を想いながら、自分の家に帰るべく足早になる。
家に着いた頃には息も上がっていたが、お構い無しに彼女にメッセージを送るとすぐに電話が掛かってきた。
「ただいま」
いつか同じ家で言える日を夢見ながら、彼女との連休に思いを馳せて三連休は終わった。
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