違和感と定位置と右側

 現在進行形で無性に居心地が悪い。

 彼女がどうこう言う話じゃない。私の問題なのだ。

 今日のデートで、そろそろ秋服でも見に行こうと家を出たまでは良かった。そのあと、ウィンドショッピングしつつ洋服も数着買ってお店から出てからだ。無意識にそのままだったが、なんとなくあった違和感に気がついた瞬間、その違和感は肥大化していった。


 居心地の悪さ。原因は場所だった。

 いつもは私が右側。彼女が左側と何を言うまでもなくその定位置になっていた。

 だが今はどうだろうか。

 逆になっている。

 私が左側。彼女が右側。

 たかがと思われるが、されどだ。

 一度気になると、そればかりが気になってしまう。

「どうしたの?」

 そわそわしだした私が気になったのだろう。彼女が不思議そうな顔で聞いてきた。

「なんかさ、」

 まだデートの最中だ。行き交う人混み。他の人にぶつかりそうになり「すみません」と避けていく。

 彼女との会話も続けるにもスムーズにはいかない。

 けど、最優先事項でもない。

「家に着いたら教えるから」

 今はこの居心地の悪さのむずむずした感じを、私が気にしなければいいだけ。

 気にしなければいいだけなんだけど……。

 というよりも、場所を自然に反対側へと移動すればいいだけの話なのだ。

 そう。たったそれだけの話なのにそれが出来ないのは手を繋いでいるからで。

 繋いだ手を離せばいいだけ。

 けれど、それが出来ないのは彼女と繋いだ手を離したくないからだった。

 居心地が悪い。けど手の温もりは居心地が良くて。なんとも矛盾した気持ちに笑ってしまいそうになる。

 今ここで言えばいいのに、なんだか変な意地がはたらいて言いづらくさせていた。


 私はこんな感じだけど、彼女はどうなんだろうか。

 隣の彼女の顔を伺うが特に気にしている様子もなかった。

 それが尚更言うタイミングを見失う。

 私だけか……。

 自分勝手だが、なんだかそれが少しだけ寂しく感じてしまうなんて自分勝手だ。

「なんかさ、」

 彼女が発した言葉を止める。それが気になって聞き返すと、少し考えたあと口を開いた。

「ちょっといい?」

「えっ、あ、うん」

 人通りがまだそこそこあるので、歩道の隅の方によせられる。

 私は彼女の行動をただ見ているだけだ。

「うん。やっぱりこっちの方が……うん」

 私が右側。彼女が左側。

「なんで……」

「なんでっていうか、なんかいつもと違うなぁって思ってて。なんだろなんだろって考えてたんだけどさ。納得」

「私もさ、これについて言いたかったんだ」

「ふふふっ、そっか」

 彼女を見ると目も口元も緩めて嬉しそうだった。

「以心伝心だ」

 以心伝心。意味はあっているのかあっていないのか。そんなことはどうでも良くて。

 ただ、彼女もそう思ってくれたことが嬉しかった。

 我ながら現金だ。

「ねっ」

 彼女と手を繋いで歩き出す。

 さっきとは違い、やはりしっくりとくる。

「なにかおやつでも食べて帰る?」

 まっすぐ帰る予定だったが、このまま帰るのも勿体ない気がして彼女に提案する。

「する。するする。この先に美味しいパンケーキのお店があるみたいでさ。行ってもいい?」

「ふふっ、いいよ」

「この前、職場の子が教えてくれてさぁ。デートの時に行こって思ってたんだ」

「私も一緒に行ってみたいお店、まだまだあるよ」

「えー、初耳」

「じゃあさ、このまま夜も外で食べちゃう?」

「食べちゃう!」

「じゃあ、まずは……」

「パンケーキからレッツゴー」

「おー」

 繋いだ手を掲げて、お互いに顔を見合せて笑い合う。

 デートはまだまだこれからだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る