水着とお風呂と独り占め
先週の彼女とのやり取りで、水着を買いに行く約束をした。
とあるデパートの特設コーナーには、ありとあらゆる水着が置かれていた。
マネキンが着ているのは今年の流行りのものだろう。水着と下着の区別があまりわかってない身からすると、少々刺激が強い。
ほぼ、下着で歩いているもんなんだよなぁ。
まぁ、あからさまに下着とは違うんだけど。昔から肌の面積が多く出る服は苦手だからか、うへぇ……と思いつつ色々な水着を見ていく。
彼女も興味津々な感じで特設会場を見回していた。
「ねぇねぇ」
お互いそれぞれに売り場を見ていると、彼女につんつんと腕をつつかれて水着から彼女に視線を向ける。
「どうかした?」
「提案があるんだけど……」
「なに?」
「お互いの水着を選ばないかなって……だめ、かな」
言っていて尻すぼみになる様子が可愛くて、思わず抱きしめたくなる衝動ををグッと堪えた。耐えた自分偉い。
「いいよ」
彼女のセンスは贔屓目にしなくてもいいと思う。対して私はというと。多分普通くらいだと思いたい。褒められたこともなければ、貶されたこともないから可もなく不可もなくだろう。
「じゃあ、十分でお互いに似合うものを選んで試着室の前に集合ね」
十分。秒数に換算すると六百秒。短くないか?
何百着か何千着もあるかもしれないこの中から、わずか十分で見つけるのは至難の業なのでは……。
時間を設けた方が効率よく探せるのもわかる。分かるけどもだ。彼女に着てもらうとなれば、悩みに悩んで決めたいのもある。
彼女を見るとやる気満々だ。ここで水を指すのも気が引ける。
仕方がない。腹を括るしかねぇ。
「わかった」
「じゃあいくよ。よーいスタート」
「いやぁ、買ったねぇ」
「そりゃあね」
あれからお互いに水着を選んで、お互いに選んだものを見ずに購入に至った訳だが。てっきり試着もするかと思ったが、水着のサイズを確認したら彼女も私も着れるだろうということになった結果、選んだ水着をお披露目せず購入に。
彼女いわく、その方が面白くないどのことだ。
あからさまに楽しそうな彼女の笑顔が怖い気もしなくは無い。
どんなものを選ばれたのか。外で見せる予定もない。だからこそどんなものを選んでも大丈夫だとも言える。
私が彼女に選んだものも、自分で着るなら嫌だけど興味本位と好奇心が勝って選んだものだ。
てっきり、選んだものを見せ合うものだと思っていたばかりいた。その時に、嫌か嫌じゃないかのジャッジをしてもらうつもりだった。今更だが、これにしてしまった後悔は少しだけある。けれど、ここでしか、今しか見られないともなれば……。
今日は彼女の家に二人で帰る。
お風呂の広さが彼女の家の方が大きいからという理由だ。
「ただいまー」
「おかえり」
「それと?」
「ただいま」
「はい、おかえりなさい」
お互いの家に入る時に、なんとなくお邪魔しますからただいまの方がいいと彼女に言われてからそうなった。
最初はそれがなんだかむず痒くてやけに恥ずかしかったが、今となっても慣れてはいないが、あの時よりもむず痒さは減ったと思う。
「じゃあ、着替えますか」
「あー、じゃあ水風呂だとお腹壊しちゃうと嫌だしぬるま湯にしておくね」
「ありがとう。頼んだ」
「はいよー」
彼女と水着の入った袋を交換する。そのまま別室でお互いに着替える。
浴槽にぬるま湯を設定して自動でお湯はりをしてもらう。その間、脱衣所で水着の入った袋を開けた。
「おぉ……」
今頃、彼女も着替えているだろう。私が渡したものを思えば彼女が選んでくれたやつは良心的だ。急いで着替えて彼女に声をかける。
「私の方は着替えたよー」
「私もだいじょーぶ」
脱衣所からリビングの方に出ていけば彼女が恥ずかしそうに立っていた。表情からすると少しだけ不満気?
「面積の少ないビキニとかさぁ、袋開けた瞬間びっくりしすぎて笑っちゃった」
「いや、うん。ごめん。どうしても見たくて」
「まぁ、なんでもいいって言ったのは私だし、別にいいんだけど。なんか恥ずかしいね」
私が彼女に選んだのはオーソドックスにビキニの黒だった。普通のより布の面積は狭いけど、想像通り彼女の身体を魅せてくれる。それになにより照れている彼女が見れたのだ。
「似合ってるよ」
凝視するのに、こっちも恥ずかしくて目を逸らしながら言ってしまうと、彼女は吹き出して笑っていた。
これは仕方がない。彼女を見て邪な気持ちが湧き上がるのをなんとか抑える。
「そっちも似合ってる。やっぱりかっこいいね」
彼女が私に選んでくれたのは、オフショルダーの水着だった。色は黒。布の面積はあるが、肩ひもが片方だけという少しだけ心許ない感じがしたが、彼女の水着に比べたら可愛いものだろう。
彼女に渡しておいてなんだが、自分で着るにはかなり勇気がいるものだ。
「なに?」
「ん、いや。すごく似合ってるから……」
「惚れ直しちゃった?」
「それは、もう常日頃から惚れ直してるよ」
次は彼女が私から視線を逸らす。その後、咳払いをしたかと思えば手を引かれてお風呂場まで連れていかれた。
そんな彼女の様子に頬が緩んでしまう。
お風呂場について、シャワーを浴びてぬるま湯に浸かる。水着という非日常的な格好だけで、いつものお風呂が違う様子に見えるのが面白い。
彼女もシャワーを浴びたあと、私の足の間に収まって座った。
彼女のお腹に腕を回し、緩く抱きしめるとぬるま湯より高い彼女の温度を感じる。
彼女もそうだったのだろう。彼女の呟いた温かいという言葉に私も頷く。
「あー、写真撮り忘れた」
「それはやめとこ」
「なんで? いつでも彼女の水着姿が見返せるんだよ」
かなり魅力的だが、万が一にでも他人に見られたら相手を滅ぼしてしまう自信がある。素直にそう伝えると彼女は一瞬黙ったあと、お腹を抱えて笑いだした。
「それは、私もかも」
お腹に回した手に、彼女の手が重なる。温かくて安心する温度だ。
「プールらしい要素、水着以外に買えばよかったね」
「浮き輪とか?」
「それ、浴槽に入らないじゃん」
二人で笑いながらプールに必須要素を話しては、あーだこーだと言って笑い合う。
「あっ、そういえば」
彼女がそう言って、一度お風呂場から出るがすぐに戻ってきた。
入浴剤の入った袋から白濁の液体を流し入れ、シャワーを出す。ゴミを捨ててまた私の前に収まる。
「なに入れたの?」
「んー、もうそろそろわかるはず」
シャワーに打たれた浴槽の水からみるみると泡が生まれる。
「泡風呂?」
「せいかーい」
プールに泡風呂とは。もはやプールとは言えないが、家ならではといえばそうだ。
「やっぱりさ、お家プールで正解だね」
「確かに。可愛い彼女を独り占め出来ちゃうもんね」
彼女の項に唇を寄せて触れるだけのキスをする。
「そっちだけ?」
「まさか」
振り向いた彼女の唇にぬるま湯よりも温度の高い熱をおくれば、彼女の方からも返してくれる。夢中になってお互いの熱をおくりあう。
こんなの外じゃ出来ないからね。
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