第19話 金(きん)と人生


 それから3時間、私たちは一心不乱に砂を洗い続けた。今までの自分の人生で、ここまで必死に働いたことはないと断言できるわ、私。

 その結果が砂金の小さな山5つと、金に匹敵するほど重い石の山1つ。


 結局ね、元魔王以外の5人がひたすらに砂を洗ったのよ。

 関心なさそうだった賢者も、私たちの砂金の山を見たら目の色が変わった。で、誰もが敬遠した一番大きくても一番重いお皿でがんばって効率よく砂金を集めたんだ。やっぱり、金ってのは魔力と言っていい魅力があるよね。


 で、金は重いから山は小さいけど、それでも1つ500gくらいはありそうだった。これだけあったら、黄金の茶室は無理でも黄金のお茶碗くらいはなんとかなりそう。

 

 放っておかれたら翌朝まで私たちは砂を洗い続けたと思うんだけど、邪魔が入った。元魔王だ。

 スライムの子、フランと一緒にのこのこやってきて、「そろそろ次の魔法陣に跳びたいのだが……」と開口一番に言ったんだけど、私たちは誰も返事をしない。

 昼寝の時間に300万円とか400万円とか稼げたと思えば、「うん、じゃあ行こう」だなんて言えないよ。それに1回のパンニングで4〜5gも金が得られるとなれば、もう1回、もう1回とがんばっちゃうし。


 元魔王、それで手持ち無沙汰になった感じで、しばらく私たちの一心不乱な作業を見ていたけど、金の山の横の石の山に気がついた。で、フランと一緒に丹念にその石を選り分けだす。

 空はもう真っ暗で星がまたたいている。泉の水が白く光っているから作業を続けられるけど、そうでなかったらなにも見えなかったに違いない。


「あったぞ!

 賢者の石だ!」

 元魔王の声が響いた。

「ありましたっ!」

 フランの声も重なる。


 だけど、みんな反応しない。薄暗い中、皿の中の砂金の粒を拾うのに忙しくて、それどころじゃなかったんだ。

「賢者の石、2つあった。大きい方は、今回の旅で魔素の供給に使おう。小さい方も誰か使うか?

 この大きさの賢者の石なら、1tくらいの鉛を金に変えられるぞ」

 ぴた。

 みんなの手が止まった。


 5人で目の色変えて、3時間で2.5kgの金を手に入れた。目はしょぼしょぼするし、指先はふやけてシワだらけだ。気がつけば、足から全身が冷えて、唇は紫色。

 なのに、元魔王がここへ来て5分で1tだと?

 5人で分けても、1人200kgもある。

 私たち、無言で顔を見合わせた。

 虚しくて、悲しくて、涙出てきた。なんで世の中、こんな不条理がまかり通るのよ?


「……あのな、賢者の石うんぬんは君たちには話したはずだがな。金の各国の保有量と国際関係なんて話をしたのはケイディ、君自身だろう?

 まあ、趣味で砂金を集めるのを余は否定しないが、そう意味のあることでもないゆえホドホドにしておくがよい」

 くっ、なによ、その上から目線っ!


 ふと横を見たら、ケイディが水の流れの中に座り込んで、微動だにせず天を仰いでいた。なんか、深く深く人生について考察しているようだった。

 あ、それでも私、砂金は持って帰るからねっ。

 ケイディ、呆けているようだったら、アンタの分も貰ってあげるわよっ!



あとがき

金に冷静さを失ったケイディ。

でもまぁ、金を目の前にしたら誰もがこうなるのです……w

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