第20話 極寒の山中
結局私たち、トンの単位の金が得られると知っても砂金を捨てることはできなかった。コレって貧乏性なのかなぁ。もしかしたら、「お茶碗にお米粒を残してはいけません。お米には神様がいるからです」ってのと同じで、金にも神様がいるからかもしれないね。
適当な布を手に入れて、砂金を包んで、肌身離さず持つようにしたんだ。そうしておかないと、ちょっと多めに見える武闘家の宇尾くんの砂金と交換されたとか、要らない問題が起きそうだったからだ。
パーティー・メンバー間の信頼関係なんて、砂金数グラムより軽いんだ。とはいえ、これも不思議なんだけど、橙香が破産して「10万円でいいから貸して」って言ってきたら、貸すんじゃなくてあげたいと思う。砂金数グラムより10万円の方が価値があるかもしれないのにね。これも金の魔力かなぁ。
今さらながらにぞくぞくと寒気がする身体に温めたMREを流し込んで、私たちは次の目的地に跳ぶことになった。これも今さらだけど、たっぷりと寒い思いをしたあとにまた寒いところに行くって、なんの罰ゲームだろ。
元魔王とスライムの子フランだけが元気なのがちょっとムカつくけど、私たちは再び魔法陣の中でブレーメンの音楽隊になった。
で、例によって跳んだ先は石の部屋。
真っ暗ななかでケイディがサイリウムを光らせる。
ぼんやりみんなの顔が浮かんだけど、吐いた息は真っ白。
外からは「べひうっ」って不穏な音が聞こえてくる。これ、外、吹雪いているよね。
って、ここ、外への扉がない。いくつかの曲がり角で外界と分けられているだけ。部屋の探検をして3分後にそれを発見して、私はびっくりして言葉が出なかった。
「動物とか入ってこないの?」
「ほぼ一年中この気候だ。そもそもいない動物が入って来ることはない。それに、下手に扉をつけると凍りついてここから出られなくなる。それを避ける方が重要と判断した」
あ、なるほど。
元魔王、なんだかんだ言って、ものを考えているのね。
「元魔王よ、食糧増産の現地確認で魔法陣を作ったと言っていたな。なぜ、こんなところに魔法陣を?
畑などないだろう?」
あ、そっか。
ケイディ、鋭い。言われてみると、たしかに不思議だ。
「実はな、肉の保管のための氷が得られないかと思って、ここに跳躍先を作ったのだ。だが……」
「だが?」
私の質問に、元魔王は複雑な顔になった。決して失意ではないんだろうけれど、でもそれにぎりぎりまで近寄った表情。
「魔族は、冷蔵してまで肉などの食品を食べたいとは思わなかったのだ。それに比べて、人間の執念は恐ろしい。季節を問わず野菜を食べたがり、冷蔵どころか冷凍してまで食べたいものを確保する。
したがって、この魔法陣は余の在位中から使わなくなっていたのだ」
ふーん。そうなんだ。
ってか、考えてみれば魔族は爬虫類みたいなもんで、食べる量が私たち恒温動物に比べて極端に少ないんだったよね。だから、そういう執念も育ちづらかったのかもしれないね。
で……。
ただでさえ寒いのに、私の体温をさらに奪う4つのもの。
砂金の包みとスライムの子のフランがとても冷たい。ツヴァイヘンダーとチタン柄の竹の物差しもやたらと冷たい。
このままだと凍死しちゃうかも。
「賢者、お願いだから温まる魔法をかけて。お願いっ」
「ロボット犬にも頼む。このままだとバッテリー電圧が低下して動かなくなる」
早速リクエストの声が湧いた。
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