第17話 パンニング


「重いかと聞かれれば、それは重いが……。

 まぁ、余も感覚で言うしかないのだが、地球でいう鉛並みに重くはある」

「なるほど。

 で、見たら見分けはつくか」

「魔素を感じられるのであれば、見分けはつこうよ」

 ケイディはぶっきらぼうに聞き、元魔王はそれなりに丁寧に答えた。


 なんだって言うのよ、ケイディ。

 なに考えているの?

 いつになくマジじゃん。


「私の国の人間なら、誰もが一度は夢見たことだ。歴史上何回も機会はあった」

 だから、なに?

 もったいぶってないで、早く教えてよ。


 ケイディは、ふらっと立ち上がると、ロボット犬の背の荷物をごそごそとかき回す。出てきたのは、ステンレスの小さな皿。

 ああ、これケイディが銃を撃ったあとに使っていたやつだ。私、知らなかったんだけど、撃ったあとの銃は分解掃除しておかないとエライことになるんだって。で、ケイディは、バラした銃のパーツをこの中に置いてなくさないようにしていたんだ。

 で、ケイディは泉を念入りに眺めだした。


「なにやっているの?」

「……」

 ……もしかして、私のことを無視してる?

 それとも、そんなに集中しないといけないことしているの?


 突然ケイディはなにかを決心したように眦を決すると、履いていた軍靴ブーツを脱ぎ捨てた。

 そして、泉の水が流れ出すところの水流の曲がり角の内側まで歩くと、しゃがみこんで持っていたステンレスの皿でそこの砂を洗いだした。


「砂かけ婆ぁ?」

 宇尾くんがつぶやく。

「違うでしょ。小豆洗い?」

 橙香もつぶやく。


 元魔王もよくわかっていないって顔している中で、「……そういうことね」って

 賢者が1人で納得しているので、私は問い詰める。

「ケイディはなにしているのよ?

 説明してよ」


「あれはね、砂金採り。水の流れを読んで、比重の重い砂金が溜まる場所の見当をつけて、あの皿でパンニングするの。つまり、軽い砂を洗い流すのよね。そうすると、皿の底に砂金が残る。

 たぶん、ここだと、相当の量の砂金、そして賢者の石が採れるはずよ」

「ふーん。で、なんでケイディの国の人はこれに夢見るの?」

 私が聞くと、賢者は首を軽く左右に振った。私、知ってる。コレ、賢者が呆れたときにする仕草の1つだ。


「ゴールドラッシュって言葉、知らない?」

「知ってる」

 私と一緒にそう答えたのは橙香。

 私は橙香に先を越されないために、早口で言ってやった。

「甘いとうもろこしよね。家の近くのスーパーで売ってた。ママはいつもこれを買ってた」

「……そっちの意味の方が、言葉としちゃマイナーだわ」

 なんで、呆れ返るのよ、賢者。


 そこで、橙香が答えた。

「ケイディの国で、19世紀に1000トンも金が採れたって話でしょ。3兆円分くらいの量って聞いたけど……」

「そうよ、蓮見さん。あなたの言うとおり。夢破れた人も多かったけど、一攫千金を成し遂げた人もたくさんいたの。まごうことなき、ケイディの国の歴史だわ」

 そっか。

 凄いんだね。1000トンの金って言われてもぴんとこないよ。

 で、橙香、知っててエラいエラい。


 そこで、ケイディが私たちを呼んだ。

 なんかケイディの顔、今まで見たことがないくらい輝いているんですけれど……。アンタさ、あんまりいい顔していると、かえって不気味よ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る