第16話 寒さは一行の敵


「まぁいい。少なくとも深奥の魔族に聖剣タップファーカイトを奪われる危険はなくなった。これだけでも、良しとしようではないか」

 元魔王がそう言って場を収めようとしたけど、偉そうなものの言い方がなんかムカつく。


「とりあえず、これから一時の睡眠を取り、魔法陣で次の地に跳ぶ。

 次の地は極寒ゆえ、装備も変えておいた方が良いだろう」

 えっ、どういうこと?

 私たちは西に向かっていて、北ではない。なのに寒くなるってことは、標高が高いのかな?


「防寒着はない。だが、アルミの防寒シートはあるので、それで凌ぐしかない」

 ケイディの言葉に、賢者が質問する。

「標高が高いとなると、天候が読めない。風が強かったら、防寒シートではなんの役にも立たない。次の魔法陣に着いたら、そのままその場で待機して同じ魔法陣から跳躍するか、隣の魔法陣まで歩いて時間を節約するか、かなりシビアな判断が求められると思う。

 そもそもスライムのフランは変温動物だし、芯まで凍ってしまったら死んでしまう。なにか、もっとまともな装備はないの?」

「ない。それどころか、ロボット犬のバッテリーも電圧を保てないかもしれない。そうなれば、装備も各々で担ぐしかなくなる。寒さは我々一行にとって鬼門なんだ」

 あー、もう、全然ダメじゃん。


「魔法で暖を取るとかできないの?」

 私の質問に、賢者は渋い顔になった。

「できなくはない。だけど、これだけの規模のパーティーの全員を温めるとなると、魔素の消費量がな……」

 そか、そっちの問題かぁ。


 逆を言えば、魔素さえあればいいのかな?

 でも、今のところ私たち一行は、元魔王と賢者の2人の体内に貯まる魔素しか供給源がない。

 ……あっ。

 私の頭の中に、今、神様が降りてきたよ。


「賢者の石があったら、なんとかならない?

 ねぇ、フラン、あんた、さっき元魔王から受け取って、そのまま持っていない?」

「そうそうそこらに転がっているもんでもないでしょ」

 賢者の答えはあまりにつれない。

「村においてきちゃいましたー」

 フランの答えも、まぁ、予想通りだ。だけど、私、喰らいつく。


「泉の水、聖剣タップファーカイトを回収したのに、まだ白く光っている。聖剣タップファーカイトは魔素で制御できるけど、魔素で動いているわけじゃない。それに今は回収済みだから、聖剣タップファーカイトが魔素の供給源ってことはない。そうなると、もしかしたら水源の底に大きな賢者の石があるかもしれないよ。魔素の流れが賢者の石を作るんでしょ。なら逆も言えるかもしれないし……」

「……勇者さぁ、力説してくれるけど、賢者の石については私、よくはわかっていないんだよね。元魔王、ご意見は?」

 賢者はそう言って、質問に答えるのを元魔王に丸投げした。


「まぁ、たしかに河床から賢者の石が見つかることはある。だが、あてにはならん。

 ……ケイディが前に言ったように、深奥の魔族の大型のものを倒せば、一番効率的に得られるやもしれぬ」

 ……って、またバトルしろと?

 生命を賭けたバトルなんか、ゲームでもなきゃそうそうやってらんないわよ。で、現実は厳しくて、レベルアップのファンファーレなんか聞こえもしない。おまけに、ステータスウィンドウとやらもどうやっても出やしない。


「その賢者の石というのは、重いのか?」

 不意にケイディが、誰ともなくつぶやくように聞いた。

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