第15話 私、女の子なんだよ?
元魔王が話し出す。
「そもそもなのだが……。
生まれたときから勇者は、体内に聖剣タップファーカイトを持って生まれてきた。聖剣タップファーカイトが魂の剣である以上、所有権の移転がされない限り、転生とともに永遠に持ち越し続けるものだ。
で、勇者よ。余と出会う前に、おのれが聖剣タップファーカイトを持っているという自覚はあったのか?」
「……ない」
私はそう答えるしかない。だって、実際そうだったんだから。それに、人を傷つけようと思いながら刃物を振るったことなんか、1回もないもん。
つまり、私は聖剣タップファーカイトというものに対して、あまりに無自覚だということだ。それとも、もしかしたら話は逆で、私は聖剣タップファーカイトを持っていない自分を知らない。つまり、聖剣タップファーカイトを持っているのがデフォルト状態なんだ。わかるわけないじゃん。
「ああ、私には右手があるんだなぁ」なんて発見するのと同じだけど、そんな発見をする人はよほどの境遇なのよっ。
ともかく、そのせいで聖剣タップファーカイトと同化している私は、泉の中で2本目のそれを認識することができなかった。
なんてことなんだろ。
聖剣タップファーカイトが私なのか、私が聖剣タップファーカイトなのか、それすら私にはわからないんだ。
「まぁ、回収できたのなら、我々の戦力は大幅に……」
そう武闘家の宇尾くんが言いかけるのを、ケイディが遮った。
「勇者、剣が2本になったからといって、使いこなせるのか?
戦いの際に、パーティーの誰かをぶった斬ってしまうようでは困る。前世の記憶が戻ってすら、1剣で戦ってきたお前が2剣で戦えるとは思えない」
「……振り回すぐらいはできるけど」
私の反論に、ケイディは首を横に振った。
「元魔王の剣、長大なツヴァイヘンダーを勇者は片手で振れるのか?
振った剣を片手だけの膂力で止められるのか?
振り回すだけとなれば、周囲に被害が出るばかりで戦いにならない」
「……ねぇ、戦うときだけ筋力増強の魔法をかけてよ」
ケイディに反論ができなかった私は、手っ取り早い解決を賢者に求めた。ふふん、魔法は便利なのよ。
「筋力増強の魔法をかけてもいいけど、両方の剣先がどこにあるか、常に把握できていないとね。片手で深奥の魔族を斬りながら、もう片手で私たちを薙ぎ払っていたら困る。よろけたあげくに身体のバランスを取るためだけに振られても、こっちはエライことになるんだからね」
なによ、なによ。
結局はケイディと同じこと言っているじゃん。
人のことを冷たい水に浸けといて、いざ聖剣タップファーカイトが見つからったら、手のひらかえしてのその言い草はないわよ。
「まぁ、ここはいいんじゃないか。勇者の今の気持ちもわかりはするからな。
ただ、これからしばらくはツヴァイヘンダーを聖剣タップファーカイトの宿りとしたらどうだろう?
元魔王もこのツヴァイヘンダーは一度も使わなかったし、構わんだろ?
で、勇者がこの重さに慣れる頃には、体幹も安定するんじゃないか?」
宇尾くんの提案に、みんなは渋々とうなずいた。
だけどさ、こんな重い両手持ち剣を、私はこれからずっと持って歩くの?
私、女の子なんだよ?
ごつい女戦士役は、橙香がいるじゃんっ。強制的に筋トレさせないでよっ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます