第14話 プールのあとは眠い
「で、ここにいた魔族たちは?」
ようやく人心地のついた私が聞いたのは、いつの間にか泉の周囲にいた魔族、誰もいなくなっていたからだ。
「泉は浅かったし、聖剣タップファーカイトもなかったようなんで、さっさと帰った。よかったな、勇者。ようやくプラマイゼロ、無関心を勝ち取れたぞ」
ケイディの言葉に私はため息を吐く。
うん、嫌われているより無関心の方がなんぼもマシだよ。私がの苦労が空振りしたおかげだ。
まぁ、昔話1つから推論に推論を重ねて、ぐずぐずの塔を組み立てたんだ。うまく行かないのが当たり前だよね。
で、今日は徒歩での移動はなく、ここに来たときと同じ魔法陣で次の魔法陣に跳ぶ。ぐったり疲れていても、まぁ、そこは救いだ。
そこへ、元魔王の辺見くんが自分のツヴァイヘンダーを持ってきて、その柄を私に向けて、「……ん」となにかを促してくる。なにをしたいのかわからないけど、これを持てということらしい。
疲れ切っていて、腕を伸ばすのも億劫だったけど、私は仕方なくそれを受け取った。そこへさらに、賢者が私の竹の物差しを差し出してくる。
「なによ?」
「いいから持って」
そう言われて私、しかたなくツヴァイヘンダーとチタンの柄の竹の物差しを握る。とはいえ、切っ先は地面につけたままだ。こんな重いもん、疲れ切っているときに持ち上げられるもんか。
だけど、そこで元魔王が耳元でささやく。
「聖剣タップファーカイトを出してみろ」
と。
なにを言っているんだろ、こいつは。まぁいい、出せと言うなら、出しますよ。そう素直に思ったのは、どうこう言い返すだけの体力がなかったからだ。正直、すべてがめんどくさい。
小学生の頃、なんでプールのあとは眠くなったのかな。それは今も変わらないなぁ。
私、竹の物差しに聖剣タップファーカイトを重ねる。
やる気があって出したもんじゃないし、振ってもいないから、泉の水面に一筋の凹みを作っただけだ。
まぁ、これはこれで現実離れしていて、自分で作っておいてなんだけど夢の中の光景みたい。
「次だ。聖剣タップファーカイトをツヴァイヘンダーにも同時に重ねてみろ」
元魔王の言葉に、さすがに私は気がついた。2本目の聖剣タップファーカイト、すでに回収済みだと元魔王は思っている。だけど、私にはそんな感覚、まったくなかったぞ。
「ダメ元でいいんだから、やってみろよ」
武闘家の宇尾くんもそう言う。そもそもね、アンタが泉に入ってくれていたら、私はこんなに疲れてないのよ。私はね、木陰での読書が似合うような、そんな線の細い美少女なんですからね。
私、返事もせずにツヴァイヘンダーにも聖剣タップファーカイトが重なるように念じる。正直言って、めんどくさかったしなにも起きるとは思っていなかった。だから、さっさと済ませて、次の魔法陣までの跳躍の前にお昼寝がしたい。水浴びは辛かったけど、服の洗濯とシャワーを同時に済ませられたようなもんだ。だから、明日は気分良く歩けるはずなんだ。だから今は寝たい。もう、まぶたが落ちそうなんよ。
竹の物差しに比べて、元魔王の持ってきたツヴァイヘンダーはそこそこ重い。だから、切っ先は持ち上げられていなかったんだけど……。
泉の岸の砂浜から水面まで、一気に直線が引かれた。水面には2本の凹みがほぼ並行して走っている。
一気に眠気が吹っ飛んだ。
これ、マジ?
あとがき
眠い、それ以外を考えられていない勇者ちゃんでしたw
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