第13話 ……空振り
泉の結構真ん中の位置でも足が付くことがわかれば、あとは苦労はない。
私、泉の中を歩き回りだす。水底は砂地のようで、歩くのに支障はない。
水面から伸びをするようにして、岸を眺めた橙香が言う。
「……阿梨、魔族たちの反応がヤバいわ」
「どういうこと、橙香?」
私、水面の上に顔が出ていて呼吸も困らないけど、浮き輪代わりの丸太に掴まっている橙香ほど顔の位置は高くできない。
「すっごく気まずい雰囲気が漂ってる」
「あー、そう。まぁ、彼らがこの泉に感じていた神秘性みたいの、全然なくなっちゃったもんね。まぁ、水がうっすらとでも光っているってのも、聖剣タップファーカイトを引き上げちゃうとなくなるかもね」
「まぁ、ある意味とどめを刺しちゃうけど、泉の底が見えるようになるから変な迷信はなくなっていいかもね」
橙香の言うとおりで、水の透明度は低いわけじゃないけど、今は私の腰辺りまでしか見えていない。だから、水底までは見えていないんだ。
なんかこう、泳ぎもしないで水の中を歩いていると、小学校の時のプールの授業みたいだよね。泳げない子がまだ多くて、でも水には慣れましょうってことで、プールの中を歩いたり顔を水につける訓練したり、と。
アレと違うのは、私も橙香も重武装に服は着たまんまだってこと。水着はないし、肌を露出させて未知の環境の水に入るのもどうかって。アマゾンには怖い水中生物がいるってのを聞いたことあるし、ここは魔界だからもっと怖い生き物がいても不思議はないんだ。
……で、うろうろと歩き回っていて、いくらか気が抜けたらしい。あまりに当然なことだけど、油断は良くないね。
お約束のようにいきなり深いところがあって、私はずぼっと沈んだ。
必死で犬かきみたいに泳いで浮かび上がる。
で、さ、こういうところに宝があるのがお約束なんだろうけど、特にナニゴトも起きない。私は泉の真ん中の水底をあちこちと歩き回ったけど、ほどなく歩き尽くしてしまった。
岸近くは歩かなかったけど、散骨された骨もあるだろうし、そもそもそんな浅いところに聖剣タップファーカイトが沈んでいるとも思えない。まぁ、昔話なんて確度の高い情報じゃないし、ガセだったんだな。
そう考えて、捜索は空振りって思ったら、とたんに私、心底身体が冷え切っていることに気がついた。そもそも泉の水、冷たかった。だけど、準備体操して、冷たいのを我慢して水に入ったら、不思議と冷たいとは感じなくなっていたんだ。だけど、それも時間の制約があったみたい。これ、なんか、小学校の時のプールあるあるだよね。
「橙香、上がろう」
「うん、阿梨、アンタ唇、紫色だよ」
「そう言う橙香もだ。もう限界。凍死しそう」
そう言って、私と橙香は泳ぎだす。服を着ていても、ズボンをめくりあげればバタ足はできる。そうなると水面に浮いて泳ぐ方が、水底を歩くより遥かに楽。
岸が近づき立ち上がると、私たち、思っていたより遥かに体力を奪われていた。
歩いていてふらつく。そして、肌に触る空気がさらに冷たい。
それでもなんとか丸太と一緒に岸までたどり着く。
ケイディと賢者、盛大な焚き火をしてくれていた。
ああ、生き返るなぁ。
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