第12話 水中調査
泉には小舟1つない。魔族はそれだけ水がキライなんだ。散骨って言ったって、これじゃ岸の周りに撒くだけじゃん。まぁ、それだって散骨かなぁ。
まぁ、しかたないから私たちは丸太を浮かべて、それに跨って泉の中に木の板で漕いで行くことにした。そこから泉の底に沈み、いや、潜り、磁石が鉄を貼り付けるように私の身体で聖剣タップファーカイトを回収するという計画だ。
さっき、ここの魔族たちに聞いたんけど、泉の一番深くて聖剣タップファーカイトがあるんじゃないかってところを教えてもらった。
で、その一番深いというところの深さなんだけど……。
魔族の誰もが泉の深さは途方もないと言うんだ。伝説みたいな話もたくさんあって、そもそもこの泉に底はないなんていう、「おじいさんとおばあさんの話」はなんだったんだってのもあった。だけど、この星の中心まで泉の底は伸びているなんてオーバーな話もある中で、一番控えめなのは視界の端に遥かに霞み、雪が積もっている山までつながっているってのだった。
ソレ、話半分でも30kmとかじゃん。
そうなると、ケイディと賢者の2人は眉に唾を付け始め、どんなに深くてもせいぜい10mなんじゃないかって話をしていた。なんか私、金額が大きすぎる詐欺には騙されないってのの実証を目撃したような気分になったよ。
それにさ、おじいさんとおばあさんを泉の底に突き落とすって話から考えたら、100mも高低差があったら墜落死しちゃうもんね。
で、どうせロープで身体を結んであるんだから、私、そのまま潜ってみることにした。命綱があるんだからあとは……、うん、橙香なら命綱の端を手放すようなことはしないだろう。
丸太の肌は予想外につるつるしていて、サルスベリの木みたいだった。だから、私と橙香は必死で丸太に抱きついて、木の板の櫂ではなく自分の片腕で水を掻いた。だって、無理に乗っても、くるんって丸太が回っちゃうんだもん。潜るときに使うウェイトの石も、丸太がくるんと回る度に水底に沈んでしまって、2度やり直した挙げ句に丸太にくくり付けた。
もうこれ、乗る道具じゃなくて、浮き輪みたいに掴まる道具だなぁ。
とはいえ私と橙香、流されないようにと泉の水が流れ出すところとは反対側から出発したから、流れはほとんど感じない。そういうところから調べていけば、安全に調査を進められるだろう。
私、おおよそ検討をつけたところまで進んだと判断して、覚悟を決めて深呼吸を何度も繰り返した。
橙香と目を合わせてうなずきあう。
頼りは橙香しかいない。とはいえ、私は橙香を一番信用している。
私、丸太にくくり付けてあった石を抱えて、一気に沈んだ。
どれほど私が神様に愛されていたとしても、最初の1回目でうまくいくとは思っていない。これはただ単純に、何度も繰り返すエントリーの第1回目なんだ。
潜ってすぐ、私は異変に気がついた。
信じられない思いで、水中で手足を伸ばす。
私の首から上が水面に出た。
浅っ!?
地球の芯まで届く深さとか、最悪で10mとか、なんだったんだろう?
魔族の連中、一度も水に入ることなく、話だけ膨らましていたのかな?
アイツら、話半分どころか1,000分の1、10,000分の1じゃん。
そして、私もびっくりしたけど、丸太に掴まって命綱の端を握りしめていた橙香の顔はそれこそ見ものだった。
絵に描いたような二度見をキメてくれて、そのうえで水面に顔を出した私のことを幽霊と信じて疑っていない顔になって、露骨に震え上がっていた。
うん、これはこれでイイ!!
旅の疲れも吹っ飛ぶってなものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます