第11話 ……なにがだ!?


「じゃあ武闘家の宇尾くん。そういうことなんで、泉の底に潜って聖剣タップファーカイトを引き上げてくれる?

 ここにいる魔族の皆様がたは、問題ないって判断してくれたよ」

 私のお願いに、武闘家、この期に及んで首を横に振った。

 なんでよ?


「さっきの話だが……。聖剣タップファーカイトは鞘となるべき持ち主を選ぶという。なら、俺が取りに行っちゃいけないんじゃないか?

 俺の体内に、聖剣タップファーカイトが吸い込まれちゃったらアウトだろ?」

「わたしは一向に構わないよ。2本もいらないし」

 ……。

 あれっ、宇尾くん、私のこと無視している?


「ねぇ、ちょっと、ねぇっ!」

 ……なんで、私の言葉は誰も聞いてくれないの?

 なんで、いつの間にかロープが用意されていて、橙香、なんでそれを私の足にくくりつけようとしているの?

 しかも、そのロープの反対側には、でっかい石がくくりつけられているってどういうこと?


「今までの話を聞いていて、私にもわかることはある。

 おそらくは、泉の底の聖剣タップファーカイト、勇者の身体が近づくことで自動的に吸い込まれるだろう。水中ダンジョンを危険を冒して探索する必要もない。だが、効率よく聖剣タップファーカイトを探して近づいていかないと、いつまでたっても体内に取り込まれない。

 素早く潜って素早く戻る、その回数をいかに稼ぐか、だ。

 これは勇者の務めだ」

 なんか、すごく不穏なことを言ってない?

 私、ひしひしと嫌な予感がするんですけど。


「……ケイディ。

 アンタ、ここへ来てなんでそんな酷いことを思いつくの?

 私の足に石をくくりつけて冷たい水の中に放り込み、さっさと引き上げてはまた突き落とす。そういうことでしょ、アンタの言っていることは?」

 私のツッコみに、ケイディは心底心外って顔をしてみせた。


「そんなことは考えたこともない。

 私は、ここにいる魔族の皆様がたの心情を推し測り、効率的に宝探しをしようと言っているだけだ。だんだん引き上げるのが面倒くさくなっていくだろうが、非難されるのはそれからでいいではないか」

「し、死んでしまうわっ!」

 私、思いっきり叫んだ。


「その苦情は、死んでからで」

「な、な、なんでよ?

 なんか私、悪いことした?

 元魔王、アンタ、なんで私から目を逸らすのよ?」

「……大丈夫だから」

 なにがだ!?


 そこで、賢者がひそひそと私の耳元に囁いた。

「おとなしく水に浸かっていなさい。

 泣き喚いてもいいから。

 勇者はね、みんなが尊敬していた王様を殺した人なのよ。スライムの村でも感じたけど、思っていたよりその反感は強い。どんなかたちであれ、村々の宝を持っていく以上、しかもそれが元魔王の言うことだからみんなが納得したという以上、後腐れがないようにしとかないとね」

 は?


「ということは、これから先、私はどこへ行っても謝罪会見しなきゃいけないってこと?」

「ソレもできないでしょ?

 攻めてきたのは魔王の方だからって、だから反撃して殺したって言って、ここの魔族が納得する思う?

 魔族の間で、元魔王は名君なのよ。かと言って、反撃してごめんなさいって謝るのも筋が違うでしょ。

 だからね、勇者。アンタが軽く酷い目にあうと、誰もが納得してわだかまりが消えるの。勇者が偉そうに命令して、だれかをこき使うなんて姿見せたらダメなの」

「……それ、マジで言ってる?

 みんなで、私に含むところがあるってことはない?」

「初対面の人に『図太い』って言われて、まだソレを聞く?」

 ……。

 ええい、いっちょ、思いっきりやってくれぃ!



あとがき

勇者、単純w

それとも器がでかい??

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