第10話 結論


 ゾンビマスターさん、周りのみんなを見回した。

「死者と話せるのであれば救いもあろうが、図らずもその死者と話すということがどういうことか、これで明らかになった。さて、これよりこの泉について皆はどう考えるか?

 死者と、否、死者の幻影とこれからも話し続けたいと思う者はいるか?」

 ……しーん。


 まぁ、そりゃそうだいね。

 鬼面導師さんの醜態がなければ、もう少し意見は割れたかもしれない。だけど、あんなのを見たあとじゃあねぇ。


「では、聖剣タップファーカイトと同じようなものが泉に沈んでいるとして、それを魔王様が引き上げることについて異論はないか?」

 ……しーん。

 これはたぶん、肯定していいか否定していいかもわからないんだ。誰かが口火を切ったら、その誰かの意見で大勢が決まる。そして、どっちに決まったとしてもあとあと揉めることはない。


 だって、どっちを選んだって実害はないんだもん。鬼面導師さんの醜態も、時間が経てば忘れ去られる。そして、たとえ相手が死者の幻影だとしても、話すことだって救われる人だっているだろう。今まで生活空間にあったものが失われるってのは、淋しいもんだよね。

 でも、なければないで済んでしまう。死者とは話せないのが当たり前なんだから。

 みんなが答えられないでいるのは、結局は感傷なんだ。そして、その感傷によって感情が左右され、決断も変わる。


「そもそも、この話はなぜ始まったんだっけ?」

 誰かの声がする。

 鬼面導師さんの家庭の事情は、いろんな話をふっ飛ばしてしまった。あまりのインパクトに、ワケがわからなくなってもしかたないよね。


「深奥の魔族が攻めてくるって話だぁ。

 だから、さっさと聖剣とやらは引き上げてもらって、そこの娘っ子に押し付けるのが後腐れがなくていいって俺は思っただがや」

 こ、このカエル、アンタね、ちょっとヒドくない?

 私をなんだと思っているのよ? 勇者以前に私、花のJKなんだからね。


「そうだったなぁ。

 実害が出るのは勘弁して欲しいもんだ」

「死んだじいさまと話せたって、腹は膨れねぇ。

 考えてみれば可怪しかったんだ。死んで行くとこは、寒いか暑いか、食い物はうめぇか、聞いても返事は返ってこなかったんだ」

「そりゃ、オメェが素で聞いたからだ。オメェが暑い方がいいと思っていりゃあ、暑いって返事が来たのによ」

「けっ、なんだそれは?

 毎回、じいさまの好きだった木の実を持っていっていたのが馬鹿みてぇだ。挙げ句に、何かが攻めてくる理由になるってんじゃ、疫病神じゃねぇか」

「魔王様、もうええだ。

 その聖剣とやら、そこの娘っ子に押し付けて、さっさと持っていってくだせぇ」

 ねぇ、アンタたち、その言い草だと、私になんか恨みでもあるっていうの?


「わかった。

 では、これより泉の底を調べ、聖剣タップファーカイト引き上げよう。

 皆の厚情、感謝しよう」

 おおう、よかった。丸く収まったじゃん。


「魔王様、深奥の魔族を倒したら、ここに戻ってきてゆっくり暮らすがええだ。勇者様御一行は、魔王様の首を斬るほどの武勇があると聞いているだ。存分に深奥の魔族とやらと戦ってもらえばええ」

 ここここ、このカエルめっ。


 ……やっぱり私、嫌われていたのね。元魔王を倒したから。で、今の、共倒れしろってことよね。

 でもって、そういうのって、少しは隠して欲しいもんだわ。今はフリだけだとしても、勇者と元魔王は仲良しなんだからさ。



あとがき

やれやれw


鬼面導師の家庭の事情って、なんかの小説とかの題みたいですねw

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