第8話 体内の力を抑えつけられない悲劇のヒロイン?


「その疑問はもっともだ。だが……」

 元魔王は、そう言いながら魔族たちの前に立った。


「聖剣タップファーカイトの力は魔素により制御され、制御されぬ有り余る力は逆に魔素の乱れを呼ぶ。聖剣タップファーカイトに悪意はなくとも、その魔素の乱れは周囲に混乱をもたらす。

 聖剣タップファーカイト、その力は、剥き出しで置いておいてはいけないのだ。なんらかの鞘に収めねば、この混乱は続く」

 そう言って、元魔王は魔族たちを見回し、さらに言葉を続けた。


「今、余は混乱と言った。

 だが、もちろんのことだがそれは魔素の混乱であって、死者と話すこと自体を混乱と決めつける気はない。また、聖剣タップファーカイトによる魔素の乱れにしても、なんらかの方向が与えられての乱れであろうとは思う。それは、死した者の思いでもあろうし、散骨に依って示された残留思念でもあるかもしれぬ。

 よって、死者と話すということにも、なんらかの真実の一片があろうかとも思う」

 聞いている魔族たち、なんかうなずいているけど……。

 種族が違うと表情が読めなくて、どういう気持で元魔王の言葉を聞いているのかわからないな。


 そこで、元魔王はふっと視線を上げた。なにか思いついたのかもしれない。

「今にして思えばだが……。

 皆の者もこの泉にまつわる話は知っておろう。老婆が鏃で枯れた泉の底を突き、泉を復活させたことをだ。その鏃が聖剣タップファーカイトとすれば、老婆の身体がその鞘、そしてその鞘が失われたことで聖剣タップファーカイトは泉の底でむき出しになった。

 もう1本ある聖剣タップファーカイトは現在、勇者の身体を鞘とし、事あるごとに勇者の心情に影響を及ぼす。

 それを見ていて思うのだが、昔話の老婆は、体内に聖剣タップファーカイトがあることに疲れていたのやもしれぬな。聖剣タップファーカイトを使い他を傷つけるのも、聖剣タップファーカイトに自身を傷つけられるのも、だ。

 だから生まれ変わりもせず、泉の底に今もあるのであろう。悲しきことよ」

 ……そうなの?

 私、あんまり自覚がないんだけど。


「ひょっとして、だから阿梨は、未だに記憶が取り戻せていないの?」

 橙香、そうなのかな?

 私ってば、体内の力を抑えつけられない悲劇のヒロインなのかな?

 なんか、ちょっと厨二病風味ではあるけど、私が可哀想過ぎてうっとりしちゃうんだけど。


「そのような聖剣タップファーカイト、深奥の魔族の手には渡すことはできぬ。途方もない災いを呼び込むのは必定。

 だからといって、聖剣タップファーカイトを引き上げたとしても、剣が持ち主を選ぶのであれば、選ばれた者は辛き生を生きることとなろう。

 それを余は誰かに強要することもできぬ。この場の皆はそれをどう思うか?

 思うところを言って欲しい」

 丸投げですか、元魔王?

 でも、なんかここまで話しているってことは、丸投げに見えて答は誘導しているのかもしれないなぁ。


 そこで……。

「……そこの娘っ子が、その勇者なのけ?」

 カエルみたいな格好の魔族が声を上げ、私を指さした。

「そのとおりだ」

「その図太そうな娘っ子に、もう1本の聖剣タップファーカイトを持ってもらえばいいんでねぇか?

 どうせなら、1本でも2本でも変わるめぇ」

 ……いきなりなにを言い出すのよ、このカエルは?

 私なら悲劇のヒロインでもいいって言うの?




あとがき

厨二病www

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