第7話 死者との会話?
元がついても、魔王ってのはすごい。
翌朝、ご近所の魔族たち、あっという間に集まってくれた。さまざまな魔族がいるけど、どう見ても遺骨を残せないような軟体系の種族もいる。
こういう人たち、なにを遺骨として泉に撒いてきたんだろうね?
「余は先王である。勇者によって首を斬られ、異世界に転生した。だが、この世界が深奥の魔界より侵略を受けつつあることを知り、万難を排し戻ってきたのだ」
集まった魔族たちから、数瞬のどよめきがおき、次に一気に歓声が巻き起こった。
「それで、余から皆に頼まねばならぬことがあるのだ。
余の首を落とした聖剣タップファーカイト、それと同じものがここの泉の底に沈んでいるらしい。余としては、散骨された者たちの眠りを騒がせたいとは思わぬ。だが、聖剣タップファーカイトがもう1本あれば、これからの深奥の魔界との戦いに利あるは明白。
泉の底の探索、許してはくれぬか?」
……しーん。
そうよね、快諾ってわけにはいかないよね。ご先祖様のお墓だもんね。
「魔王様、2つ言いたきことが。お許し願えますでしょうか?」
そう声を上げたのは、杖をついた鬼面導師。
「忌憚なき言葉が欲しい」
元魔王の言葉に、鬼面導師は深くうなずき、口を開いた。
「すでに死せし者たちも、魔王様のお陰を持ちまして、空腹に悩まされることなく旅立っていったのでございます。魔王様の探索については否応もございませぬ」
「そうか。それはありがたき言葉よ」
おうおう、食糧増産できた王様ってのは、敬愛されているねぇ。
「ですが……。そのもう1つの聖剣タップファーカイトを引き上げたら、我々は死者と話すことができなくなってしまうのではないかと懸念いたします。聖剣タップファーカイトは、使う契約をした者の体内に滲み込むものというのは知られた事実。そうなったら、二度とこの泉には戻りませぬ。
私どもは、魔王様に対してと同じように、彼岸に旅立っていった者たちにも思いを抱いております」
……そりゃあそうだ。
聖剣タップファーカイトがもう1本あるかもってことで舞い上がっちゃったけど、地元の魔族にとっちゃその意味はぜんぜん違うんだもんね。
うーん、難しいなぁ。
死んじゃった人と話せるってこと自体がすでにイレギュラーなことだし、事象としては本当に死んじゃった人が話しているのではなくて、生きている人の意識が投影されたものらしいし、だけどさ、そんなことは言えないよね。
それを言ったら、イコールで「諦めろ」ってことだもん。
「よくわかった。そう思うのも当然のこと。余としては、それに対してなにも言えぬ」
あ、割りとあっさり諦めたわね、元魔王。
それともなにか、考えがあるのかな?
そのまま、静かに時が流れること15秒。
「ちょっといいか?」
手を上げたのはゾンビマスターの若者。
「なんでも言って欲しい」
再び元魔王が答える。
「彼岸に旅立っていった者たちへの思いは、俺にだって確かにあるんだが……。この泉で俺と話していたのは、死んだじいちゃんか?
それとも、聖剣タップファーカイトと俺は話していたのか?
聖剣タップファーカイトだとしたら、俺は
とたんに、集まった魔族たちは大騒ぎになった。
ああ、元魔王、この意見が出ることを見越していたのね。
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